利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(23) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

モデル国の不在を超える道

野党の支持率が躍進していない一因は、それらの政党が依拠している政治思想にも、それぞれの難点や限界があるからではないかと私は考えている。例えば、かつての民主党が一回政権交代を実現したのは、リベラル派や中道左派の理想が世界的にも輝いており、自民党の長期支配に幻滅した人々を引きつけたからだろう。ところが今は、世界的にこれらの政治思想やそれに基づく政治は退潮傾向にある。

代わってポピュリズムや極右政治が伸長し、アメリカやヨーロッパ諸国でも政権を取ったり、主要政党の一つになったりしている。日本政治もこの例外ではない。こういった政治的動向は、民主主義にとっては危険である。古代ギリシャのアテネが陥ったような衆愚政治に転落しかねないからだ。

それではどのような政治的理念が望ましいのだろうか。明治以後、日本の政治には、お手本とすべき外国があった。明治時代には英米仏や独がモデル国だった。戦後にはアメリカの影響が強くなり、福祉などでは北欧諸国を理想とする人々もいた。ところが今は、このような「先進諸国」の政治も混迷している。だから、すぐに理想とすべきモデルや、その基礎となる政治思想がなかなか見当たらないのである。野党が勢力をなかなか回復できないのは、その非力のためという以上に、今日のこのような世界的状況の帰結ではないだろうか。

よって、私たちは再び維新の志士たちに倣わなければならないだろう。当時は、海外の政治的モデルを参考にしつつも、独自の政治的理念と構想を自らの力で考えた。それが、今でも日本政治にさまざまな形で影響を与えている。新しい時代を切り開くためには、そのような創造的な挑戦を行っていく必要がある。

プロフィル

こばやし・まさや 1963年、東京生まれ。東京大学法学部卒。千葉大学大学院人文社会学研究科教授で、専門は政治哲学、公共哲学、比較政治。米・ハーバード大学のマイケル・サンデル教授と親交があり、NHK「ハーバード白熱教室」の解説を務めた。日本での「対話型講義」の第一人者として知られる。著書に『神社と政治』(角川新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう』(文春新書)など。

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