利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(20) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

明治国家の失敗からの教訓

よって、ここから学ぶべきことは、明治憲法体制の方向に回帰するのがいいということではない。志士たちや神道家の純粋な理想が実現できなかったのは、神道内部や、神道と仏教との間に反目や諍(いさか)いがあったからだ。よって、現代において大切なのは、これら相互の間で宗教間対話や宗教内対話を進めて、宗教間・宗派間で相互理解と協力を進める必要があるということだろう。

もう一つ大事なのは、宗教は国家に依存したり、その行政機構になってしまったりしてはいけないということだ。

素朴に考えてみれば、神社では目に見えない神々が祀られているのだから、神道は当然宗教である。ところが、今も神社では教えを説かずに祭祀を主にしていて、一般の人々は初詣や七五三など、儀礼の際だけに神社に行くから、宗教というよりも習慣や儀礼だと思っている人も少なくない。この理由の一部は、明治以来の非宗教という性格が残っているためである。本来は宗教であるのに、宗教ではないとされて善い生き方を説くことができなくなるのでは、本末転倒ではないだろうか。

明治時代ですら一つの宗教を国教として宗教国家をつくることはできなかったのだから、今はもっと無理だ。とすれば、戦前のように神道も含めて宗教が国家から支配されないように、宗教は自立していなければならない。

「勤皇」の志による宗教的な国家の実現という夢を、もし現代に新しい形で復活させようとするならば、その第一歩として明治150年を機に、逆説的ながら当時の失敗の理由を直視して、宗教間協力と、国家からの宗教の自立という2点の重要性を改めて認識する必要があるのである。

プロフィル

こばやし・まさや 1963年、東京生まれ。東京大学法学部卒。千葉大学大学院人文社会学研究科教授で、専門は政治哲学、公共哲学、比較政治。米・ハーバード大学のマイケル・サンデル教授と親交があり、NHK「ハーバード白熱教室」の解説を務めた。日本での「対話型講義」の第一人者として知られる。著書に『神社と政治』(角川新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう』(文春新書)など。

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