利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(18) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

政府・市民社会と宗教の連帯

では改めて、微力な一人ひとりに何ができるのだろうか。以前はアフリカ諸国では絶対的な貧困・飢餓からの脱出が最大にして緊急の課題だったのに対し、今は自立的な経済発展も目標になっているので、企業や経済界の果たしうる役割が大きくなっている。それだけに、先進諸国と同じ問題も浮上しつつあり、SDGsでいう「持続的な開発」は日本も含めて共通の世界的な課題なのだ。

よって、私たちも改めて幸福を問い直す必要があり、それゆえにこそ、宗教の果たしうる役割は大きいのではないだろうか。利害関係を超えた人道的行動を促すのは地球における同胞愛であり、現地の考え方を尊重しつつ、全世界の共通の善としての幸福、つまり地球的福祉の実現を図る必要がある。そのためには、政府や市民社会(NGOやNPO)と共に、キリスト教や仏教などが宗派を超えて参画してこそ、従来の取り組みを超えた新しい運動が可能になるのではないだろうか。そんな可能性を感じさせる一日だった。

プロフィル

こばやし・まさや 1963年、東京生まれ。東京大学法学部卒。千葉大学大学院人文社会学研究科教授で、専門は政治哲学、公共哲学、比較政治。米・ハーバード大学のマイケル・サンデル教授と親交があり、NHK「ハーバード白熱教室」の解説を務めた。日本での「対話型講義」の第一人者として知られる。著書に『神社と政治』(角川新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう』(文春新書)など。

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