法華経のこころ(6)

人間の生き方の究極の境地が示された法華三部経――。経典に記された一節を挙げ、それにまつわる社会事象や、それぞれの心に思い浮かんだ体験、気づきを紹介する。

仏種は縁に従って起る(方便品)

「すべての人が仏性(仏になれる可能性=仏種)を宿している。その仏種も、ある縁(条件)に触れることにより、初めて芽を出し、成長し、仏果(成仏)という実を結ぶものである」。どんな人に対しても、善縁となって触れ合うことの大切さを説いた一句。

関東地方は記録的な大雪に見舞われた。「各地で事故続出、交通渋滞」のニュースを耳にしながら、憂うつな気分で暖を取っていた夕方のこと。玄関先で嬉々として何やら叫ぶ長男の声に引かれ、部屋を飛び出した。

「ほら、雪がキラキラ光っている」という子供の言葉に促され、目を虚空に転じてみた。すでに夜のとばりが下りた闇の中を、電灯の明かりを背景に、粉雪が銀色に身を変えて宙を舞っている。それは、私にとっても初めて目にする雪姿。その光景に見とれながら、親子は白い静寂の中に、寸時、溶け入っていた。

感動は感動を呼ぶ。それは、人をより高い生き方への願望へと導き、さらに、それまで眠っていた本然の心(仏性)まで覚醒させる力となる。憂うつな気分から一転して、感動の心を呼びさましてくれた子供の働き掛けに私は感謝し、善き縁となることの大切さを改めて確認することができた。
(M)

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