法華経のこころ(4)

人間の生き方の究極の境地が示された法華三部経――。経典に記された一節を挙げ、それにまつわる社会事象や、それぞれの心に思い浮かんだ体験、気づきを紹介する。

諸の言説する所は 皆実にして虚しからず(如来寿量品)

「形はさまざまであっても、仏の説くところはすべて真実であり、ひとつとしてムダなことはない」。自分を取り巻くあらゆる現象が、人格を向上させ悟りに至らせてくれる契機となり得る。

取材時、女性のSさんは50代半ばだった。不治の病と長く闘ってきた。結婚しなかったのも、病気のためだった。地方から都会へ出てきたのは娘時代。大きな夢を胸に抱いていた。だが、突然の発病、入退院の繰り返し。都会での孤独な闘病生活に耐えられず、何度も死のうと思った。

難病患者に対して電話相談にのるSさんの姿からは、暗い過去の思いは想像できない。そのSさんを変えたのは同じ病気で苦しむ患者の悲痛な叫びだった。「自分一人が苦しんでいるのではない。ならば、同じ苦境の人々と苦を分かち合いたい」。Sさんは以来、患者間の連絡を取り合い「心の窓口」になっていった。

病魔は逆に、Sさんを強くしていった。「病に逆らってはいけない。病の上にアグラをかくような気持ちで生きなくちゃ」。多くの患者と知り合って生きることの意味を考えさせられた、という。無償の相談を続けたSさん。闘病の中から、強靭(きょうじん)な生き方を見いだしたSさんの姿に、求道の精神が感じられた。
(O)

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