気づきを楽しむ――タイの大地で深呼吸(20) 写真・文 浦崎雅代(翻訳家)
リハビリに気づきを添えて――母の骨折に学ぶ
母が右手首を骨折した。しかも、タイで。7月末のことだった。80歳を超える母と妹家族の総勢8人が、夏休みにタイまで遊びに来てくれていた。10日間の楽しいタイの旅がもうあと数日で終わるという時、母はわが家のベランダにあった段差で転んでしまい、手首を地面に強く打ち付けてしまったのだ。一瞬のことだった。
急いで近くの病院に連れて行き、応急処置が施されたが、約100キロ離れた大きな街の病院で早急に手術をすることになった。優秀な医師、優しい看護師から手厚いケアを受けたそのおかげもあり、手術は無事成功。その後、高齢の母は大事をとって約1週間入院し、わが家で2週間ほど静養して日本に戻った。今は実家のある沖縄で、週3回のリハビリを頑張っている。
母はこれまで、大きな病気をせず元気に過ごしてきた。ボランティア精神にあふれ、いつも人様のことを思って行動してきた人で、私の誇りである。手術後、妹の子である姪(めい)や甥(おい)たちが病院まで見舞いに来てくれたが、いつも元気なおばあちゃんがベッドに横たわる姿を見てショックを受け、泣いてしまう場面もあった。私も姪っ子たちが純粋に母を思う姿にもらい泣き。それだけ、いつも慈愛をもって人に尽くす、元気なおばあちゃんなのだった。
しかし、いくら元気とはいえ、言葉の分からない異国の地での「けが」と「手術」である。私は、普段遠く離れていてなかなかできなかった親孝行をさせてもらおうと、その日からずっと付き添った。気丈に振る舞う母だったが、やはり時々不安を生じ、私自身もまた、心配な気持ちが何度も生じてきた。
ただ、このピンチの中で本当に有り難かったのが、母も私も「体に苦しみがあっても、心まで苦しまない」という“気づきスピリット”を思い起こせたことだった。母は、全身麻痺(まひ)でありながら、「気づきの瞑想(めいそう)」によって苦しまない心の自由を得られた生前のカンポンさん(連載第9回参照)に会ったことがある。入院中は何度も「カンポンさんは、もっと大変だっただろうに、すごいねえ」と言い、手首の骨折だけで済み、大事に至らなかったわが身の幸運を味わった。
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