「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年(10) 文・黒古一夫(文芸評論家)
「アメリカ化」の果てに
戦中は、軍部主導により「鬼畜米英」「撃滅米英」、戦後の占領期には反米思想から「ヤンキー・ゴーホーム」という言葉が唱えられた。これを経て、1960年代に入ると、東西冷戦がますます厳しさを増し、日米安全保障条約が改定された。この締結は、戦後の日本の方向性を明らかに決定づけるものであった。政治(外交・軍事)はもちろん、経済面や文化面、あるいは生活の仕方(ライフ・スタイル)などあらゆる面で、それまで以上にアメリカに「追随」していくことを予測させ、事実そう進んだということである。
言い方を換えれば、戦後復興や高度経済成長を経て「豊か」になった日本を底支えしていたのは、「密な」日米関係に他ならなかったということである。そのことを象徴する一例が、米国の強い意向を受けて発足した警察予備隊であり、「保安隊」への改称を経て、世界第7位の装備を誇るまでになった自衛隊だ。「平和主義」を原則とする日本国憲法の精神に照らして、「日本の軍隊」という言い方は不適切であるが、核兵器や航空母艦こそ持たないが世界有数のその装備から、国際的には、自衛隊は実質的に「軍隊」と考えられている。