エネルギー転換を図るドイツの事例に学ぶ(1) 政府に「脱原発」を提言した倫理委員会のメンバーが講演

講演に立ったシュラーズ氏は、第二次世界大戦後の東西冷戦下で、「核の平和利用」を掲げる米国の技術提供を受け入れ、1969年に最初の原発が操業を開始したドイツ(1990年までは西ドイツ)の原子力発電の歴史に言及した。

それによると、同国では当初から、原発や高速増殖炉の建設に対して予定地で抗議デモが起きたが、その声は政治には届かず、70年代に「緑の党」が結成され、政治を直接変えようとする動きが生まれた。それでも政治が大きく変わることはなかったが、86年の旧ソ連(ウクライナ)で起きたチェルノブイリ原発事故によってドイツでも放射性物質による汚染が確認され、市民の危機意識が高まり、政治が変化したという。以後、新しい原発の建設の凍結や、原子力発電の廃止を模索する政策が続いた。

2009年、キリスト教民主同盟と自由民主党連合などによる連立政権が誕生し、それまでの政策を転換して、地球温暖化対策として原発の運転期間延長の計画が打ち出された。しかし、11年に福島第一原発事故が発生し、再び状況が一変したとシュラーズ氏は指摘し、当時の様子を紹介。市民にチェルノブイリの記憶がよみがえり、福島に暮らす母親たちに寄り添おうとする女性たちが現れるなど、日本での事故を自らの問題として捉え、社会全体が危機感を共有するに至ったと話した。

事故後、ドイツでは、政府のもとに「安全なエネルギー供給に関する倫理委員会」が組織された。エネルギー政策を経済的側面ではなく、倫理の観点から検討することが重要であり、シュラーズ氏は、「倫理委員会には、原子力の専門家や事業関係者は一人も入っていません。環境政策の研究者や哲学者、宗教者など社会の代表者としてのメンバー構成がなされた」と述べた。

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