エッセー「いのちのつながり」 JT生命誌研究館・中村桂子館長

    協力:団まりな 絵:橋本律子

地球に生命が誕生して約40億年。多様な生物が、無数の結びつきの中で互いに支え合い、豊かないのちのハーモニーを奏で続けてきた。JT生命誌研究館館長の中村桂子さんは、生命の歴史と、人間を含む生物と自然との関係を長く研究し、「生命誌(Biohistory)」を提唱している。それぞれの生きものがもつ歴史性と多様な関係を示す中村さん考案の図と、「いのちのつながり」に関するエッセーを紹介する。一年の始まりに、自らにつながるいのちの神秘を考えてみては……。

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「人間は生きものであり、自然の一部です」。これまでに何度、この言葉を書いたり口にしたりしてきただろう。幼稚園児も知っているであろうこの言葉をくり返すのには、それなりのわけがある。

生きものの研究が進み、人間を多様な生きものの一つとして考えて暮らすことが、私たちの気持ちを豊かにしてくれる。このことを多くの人と共有したいからである。またもう一つの理由は、新自由主義の下で金融経済を動かし、科学技術の振興による進歩だけをよしとする現在の社会のありようは、どう見ても、人間を“生きもの”であると理解しているようには思えないからである。

まず、生きものの研究が示す人間像を描こう。生きものを見る時の基本はその多様性である。チョウ、キノコ、身近な草花たちは、それぞれが違う形態で巧みに生きていながら、昆虫と植物、植物とキノコなど共生しているところが興味深い。多様でありながら、全ての生きものが細胞でできているという共通性があるから共生できるのである。

地球上の生きものは全て、40億年近く前に海中に存在した細胞を祖先とする仲間である(絵参照)。上の扇は天の部分に多様な現存の生きものを描き、要(かなめ)に祖先を置いた。生きものはどれも40億年近くの歴史あっての存在であり、そこには優劣の区別はなく、つながり合っている。このような仲間の一つとして人間(ヒト)が存在しているのである。

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