近代立憲主義と日本国憲法 早稲田大学大学院教授・長谷部恭男氏

一方、憲法21条は、「表現の自由」を保障すると定めています。ただ、いくら自由といっても、警察に届け出を出さずにデモ行進を行ったり、人の名誉を毀損(きそん)したりすると、罰せられることがあります。他者の権利を侵害したり、社会全体の利益を損なうような表現活動だからです。そうした活動の制限は法律によってなされます。

重要なのは、個人の表現の自由が原則として「国家権力による制限を受けない」という出発点を、憲法が示しているということ。そのため、国家権力が個人の自由を制限する法律を制定する際には、それなりの理由が必要で、政府がそれを国民に説明し、納得してもらわなければなりません。

近代立憲主義とは、多様な価値観を尊重し、私たちの自由が侵されないよう、国民が憲法によって政治権力を縛る考えや制度であると話しました。この前提を認識した上で、今ある法律、これから成立するかもしれない法案について、社会全体の利益にかなうものであって、しかも個人の自由に不当に制限を掛けていないか国民自身が十分に見定め、考えていかなければなりません。

全ての法律の大本にある憲法について考えることは、私たち国民が、何を大切にし、どのように暮らしていきたいかを考えることと同じ意味合いがあります。そのことを忘れないでください。

(3月19日、立正佼成会の法輪閣で行われた人権学習会の講演から)

プロフィル

はせべ・やすお 1956年、広島市生まれ。東京大学法学部卒業後、学習院大学法学部助教授、東京大学大学院法学政治学研究科教授を経て、現在、早稲田大学大学院法務研究科教授を務める。専門は憲法学。総務省の情報通信審議会、衆議院議員選挙区画定審議会などの委員を歴任する。著書に、『憲法の良識「国のかたち」を壊さない仕組み』(朝日新聞出版)、『憲法と平和を問いなおす』(ちくま新書)、『憲法の理性』(東京大学出版会)など。

 

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