気づきを楽しむ――タイの大地で深呼吸(13) 写真・文 浦崎雅代(翻訳家)

とても分野の狭い、いわゆるニッチな業界だけれど、タイには素晴らしいお坊さまが書かれた本が数多くある。音声や動画コンテンツも豊富で、私の一生をかけても到底訳しきれない。智慧(ちえ)が詰まった宝の山がそこにはあった。

こうした分野の翻訳は、自動翻訳ツールを使っても簡単に訳せるものではない。文脈を理解し、必要とあればツールにはない言葉を加える必要が出てくるからだ。そして何より、訳者自身の法の理解と人としてのありようが問われてくる。もはや私にとっての翻訳は、仕事ではなく修行だ。自らの未熟さがさらけだされる恥ずかしさを受けとめながら、この時代における法の届け方を学びながら模索している。

翻訳自体はこれから、人工知能(AI)が活用され、さらなるバージョンアップがなされる時代に入るだろう。言葉の変換が容易になる時代だからこそ必要な、修行としての翻訳。法を伝える難しさと楽しさを味わいながら、これからも淡々と届けていきたい。

プロフィル

うらさき・まさよ 翻訳家。1972年、沖縄県生まれ。東京工業大学大学院博士課程修了。大学在学中からタイ仏教や開発僧について研究し、その後タイのチュラロンコン大学に留学した。現在はタイ東北部ナコンラーチャシーマー県でタイ人の夫と息子の3人で生活している。note(https://note.mu/urasakimasayo)にて毎朝タイ仏教の説法を翻訳し発信している。