こども食堂から築く共に生きる社会(12)最終回 文・湯浅誠(認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長)

画・福井彩乃

人々をつなぐ――こども食堂が地域の「接点」に

かつて、お寺は地域のインフラでした。現代でも、人は生まれてから死ぬまでの間に、何らかの形でお寺にお世話になっていると思います。そしてお寺は、地域の交流拠点という役割も担っていました。季節ごとに、お寺の境内で町のお祭りが行われることも珍しくありませんでした。

近年、そうした機能を取り戻したい、と考えるお寺も増えてきました。人が亡くなり、お葬式や法事の時にだけ求められるのではなく、日頃、地域の方々と、生きているうちからお付き合いがないと、その地域に本当に必要とされるお寺と思ってもらえない、というのです。しかし、〈何をすればいいのか……〉と戸惑うお寺も多い。そんな中で、こども食堂を始めるお寺が出てきています。

こども食堂を開くといっても、住職さんが食事を作るわけではありません。お寺のスペースを地域の方たちにお貸しするのです。

ある住職さんに聞いたことがあります。「やってよかったと思うことってありますか?」と。すると、その住職さんは次のような話を聞かせてくれました。

「これまで、毎週日曜日に、仏教の教えをお伝えする会を開いてきました。毎回、熱心な方が聞きに来てくれますが、高齢の方が数人ということが多かった。広い本堂にぽつんぽつんと座っておられる前で、お話をさせてもらうのです。

もう長い間そんな感じでしたから、それを特に寂しいとも思っていませんでした。そうした中で、たまたま成り行きでこども食堂を始めることになったのですが、こども食堂の日は、子どもたちがバタバタと走り回り、お母さんたちが『静かにしなさい!』と叱るような喧騒(けんそう)の中、70人とか80人といった方たちの前でお話をさせてもらうようになったのです。これはね、住職冥利(みょうり)に尽きるんですよ。涙が出る。やめられるわけがありません」

こんなお話でした。

つながりを求めているのは、こども食堂の人たちばかりではありません。お寺の方たちも、つながりを求め、地域の人たちとの接点を求めているのです。こども食堂というやり方は、そうしたお寺の方たちが地域の方たちとつながる手法でもあるのです。

さて、この連載もついに終わりです。2年にわたって連載させていただきましたが、こども食堂というものを近しく感じていただくことはできたでしょうか。こども食堂の魅力、そこに参加している子どもや大人が元気になっていく様子を十分に伝えてこられたか不安がありますが、機会を見つけて、ぜひ一度、お近くのこども食堂に遊びに行ってみていただけるとうれしいです。

私は、引き続き、認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえという団体の理事長として、こども食堂の普及に取り組んでいきます。こうした場所が増えていくことが、日本の未来を明るく切り開いていくことになると信じています。読者の皆さまが、こども食堂により興味を持ち、むすびえのホームページ(https://musubie.org/)などもご覧になってくだされば、とてもうれしいです。

プロフィル

ゆあさ・まこと 1969年、東京都生まれ。東京大学法学部を卒業。社会活動家としてホームレス支援に取り組み、2009年から3年間内閣府参与を務めた。現在、東京大学先端科学技術研究センター特任教授、全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長。これまでに、「こども食堂安心・安全プロジェクト」でCampfireAward2018を受賞した。