こども食堂から築く共に生きる社会(6) 文・湯浅誠(認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長)

画・福井彩乃

貧困問題の限界を超える――「こども食堂」という発明

「どなたでもどうぞ」と、すべての人に開かれた形で運営されるこども食堂は、そこに行っても「あの人、大変なんだね」と言われないがゆえに、行くことが恥ずかしくならない、と前回書きました。それを信号機に例えて、「黄信号の人が青信号の顔をして行ける場所」とも言いました。

それが「発明」だと私が言うのは、少なくとも私はそういう場所をつくり出すことができなかったからです。私自身はずっと「いかに相談しやすくするか」を考えてきました。たとえばワンストップ相談。相談窓口がバラバラだと、どこに行けばいいかわからないし、ときに「たらい回し」といった現象が起こります。だから、窓口を一つにして、一度で済むようにします。また、SNS相談もその一つです。対面で相談するのは勇気がいるので、SNSでも相談できるようにするのです。こうした工夫はとても大切なことだ、と今でも思います。ただ、そこには限界もありました。「相談ありきで考える」という限界です。

相談しやすくすることは大切ですが、それが「相談」である限り、「黄信号」の人たちにとっては、やはり抵抗を感じます。その結果、多くの人たちは依然として相談に来ることはなく、来たときには、すでに、大変な状態になってしまっているのです。だから私たちは、何十年と同じセリフを繰り返してきました。「なんでもっと早く来ないんですか」と。

こども食堂と出会ったとき、私はそこで、「相談する」という意識がないまま、「楽しそうだから」「おいしそうだから」と思って出かけた場所で、何かの拍子に相談が始まったり、周囲が気づいてくれたりする、ということが起きていると知りました。「相談」と言うと敷居が高くなってしまうのですが、「どなたでもどうぞ」「みんなで食べたらおいしいね」と言える場では、みんながすっと自然体になれます。でも、別に騙(だま)しているわけではありません。そうした関係性の中で、話したくなったら話せばいい、相談したくなったらすればいい、というスタンスです。そして、この「どなたでもどうぞ」「みんなで食べたらおいしいね」というメッセージが多くの人の心に響き、伝播(でんぱ)して、全国6000カ所にまで増えたのです。

結果的に、年間の延べ利用者数は1000万人(推計)を超えています。日本の貧困率(相対的貧困率)は政府発表で15.4%ですから、こども食堂にも同じ比率で来ているとすれば、約150万人の困窮者がこども食堂に来ていることになります。「生活困窮者自立支援制度」という国の制度での新規相談受付件数は約78万件(令和2年度)ですから、とても多くの、課題を抱えた人との「接点」が、こども食堂でつくられていることがわかります。

私は思い出します。2000年代後半、日本の貧困問題が深刻化していると感じた私は、貧困に苦しむ人たちを支える取り組みを広げようと呼びかけました。多くの人が呼応してくれて、全国に団体ができました。それはとてもありがたいことでした。しかし、このときにできた団体数は全国に30程度でした。こども食堂はその200倍です。この課題に触れる人の裾野を広げるという観点から考えた場合、こども食堂の貧困問題に対する「貢献」はすごいものがあります。

こども食堂は「相談ありき」で考えていた私の限界を超える取り組みでした。(つづく)

プロフィル

ゆあさ・まこと 1969年、東京都生まれ。東京大学法学部を卒業。社会活動家としてホームレス支援に取り組み、2009年から3年間内閣府参与を務めた。現在、東京大学先端科学技術研究センター特任教授、全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長。これまでに、「こども食堂安心・安全プロジェクト」でCampfireAward2018を受賞した。