幸せをむすぶ「こども食堂」(9) 文・湯浅誠(認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長)

画・福井彩乃

災害と「こども食堂」

前回まで、「居場所」は暮らしにとってエッセンシャルなもので、だからこそ、「こども食堂」の人たちはコロナ禍でも活動を続けたし、それを政府・企業含めて多くの人たちが後押ししてくれている、とお伝えしてきました。その行為を一言でいえば、「つながり続ける」ということだとも表現しました。今回は、それを踏まえて、災害との関係を考えてみたいと思います。

私たちがつくづく健康のありがたみを感じるのは、病気のときです。同じように、ふだんのつながりのありがたみを痛感するのは、災害などの非常時です。

たとえばここに80代の一人暮らしのおばあちゃんがいるとします。災害で断水したとき、このおばあちゃんは自衛隊の給水車に水をもらいに行くでしょう。しかし、ポリタンクに入れてもらった水を自宅に持ち帰ることはできません。水はとても重いからです。水を少し離れた自宅まで持ち帰るのは「ちょっとしたこと」ですが、このちょっとしたことができないと、トイレにもお風呂にも洗い物にも困ることになる。ちょっとしたことが暮らしに大きな影響を及ぼすのが非常時です。しかし、このちょっとしたことのために遠くに住む親戚が駆けつけてくれるというのは考えにくい。結果的にこのおばあちゃんは、ご近所にそれを頼める人、ちょっと手伝ってくれる人がいるかいないかが「死活問題」だということを痛感します。これが非常時の特徴です。だから非常時には、多くの人にふだんのつながりのありがたみを強く意識させ、その結果、ふだんのつながりづくりに人々の意識を向かわせます。

実際、災害が起こるたび、こども食堂は被害に見舞われた地域で増えてきました。ふだんのつながりが大事だと思った人たちが、地域交流のためにこども食堂を始めるからです。そして、こども食堂の人たちがつくってきたふだんのつながりが、今回のコロナ禍という非常時に弁当配布や食材配布といった取り組みを通してセーフティーネットとして機能しました。

私たちの日常は、すでに災害と隣り合わせになっています。隣り合わせなので、完全に避けることはできません。それでも、暮らしが成り立つようにしていこうという考え方が「減災」であり「ウィズコロナ」です。その際に必要なのは、日常と災害が隣り合わせである以上、ふだんのつながりづくりと非常時のセーフティーネットも隣り合わせになっていることです。ところが、これまではそうではありませんでした。ふだんのつながりづくりをしている自治会などはコロナ禍で活動を停止しました。災害支援団体は、ふだんは地域で活動していません。その中で、こども食堂の人たちは、ふだんからのつながりをつくり、災害時には、困っている人たちの暮らしを下支えする、という行動を取っています。私はこれが、一人暮らしの高齢者が増え、災害も多発していくこれからの日本社会のモデルになるのではないかと思っています。

今回のコロナ禍で食材・弁当配布をしたこども食堂は全体の7割だと、前回書きました。箇所数にすると3500カ所になります。大変な数ですが、毎日行われているわけではありませんから、日本全体を覆うにはまだまだ足りません。でも自治会は全国に30万あります。お寺や神社は15万7000、コンビニは5万、保育園は3万7000、高齢者の居場所は9万あります。仮にこの1割でも食材・弁当配布を行っていたら、日本全国で5~6万カ所となったでしょう。そのとき「大変な状況だけど、みんなで乗り切ろう」という社会のつながりを、より多くの人がより強く感じられたのではないかと思います。

今後も災害は起こります。こうした取り組みが全国に広がれば、私たちの社会はもっと「災害に強い社会」になる――それを願います。

プロフィル

ゆあさ・まこと 1969年、東京都生まれ。東京大学法学部を卒業。社会活動家としてホームレス支援に取り組み、2009年から3年間内閣府参与を務めた。現在、東京大学先端科学技術研究センター特任教授、全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長。これまでに、「こども食堂安心・安全プロジェクト」でCampfireAward2018を受賞した。

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