TKWO――音楽とともにある人生♪ パーカッション・渡辺壮さん Vol.3

生の演奏が持つ力

――最後に、吹奏楽ファンの皆さんに向けてメッセージをお願いします

ぜひ演奏会に来てほしいですね。生の演奏は、自分の想像以上のことを感じさせてくれますし、もしかしたら一生忘れることのない感動になるかもしれないですから。私にもそうした経験があります。

24歳の時、私は仕事がなく、時間だけはあったので、ドイツのミュンヘンに留学していた友達の家に3週間も転がり込みました。ミュンヘンには、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団、バイエルン放送交響楽団、バイエルン国立管弦楽団という、ドイツを代表する楽団が三つもあります。滞在中はこの三つの楽団だけでなく、アメリカやフランスの有名なオーケストラのツアーもあって、たくさんの演奏会に足を運びました。それも、日本で聴いたら何万円もするような演奏会を1000円程度で聴けたんです。

その時、バイエルン放送交響楽団がベルナルト・ハイティンクという有名な指揮者を迎え、ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」を演奏する公演を聴くことができました。たまたまチケットを買って入った演奏会がこの公演で、とてつもなく素晴らしいステージでした。心動かされた私は、こんなに素晴らしい演奏会を聴ける街に1年だけでいいから身を置きたいと思い、留学しようと決め、準備を始めたんです。

それから十数年後、バイエルン放送交響楽団の打楽器奏者の方と日本で話す機会があり、当時の演奏に感動して私は留学を決めたと話したところ、「あの演奏を聴けた君は幸運だよ。あの演奏会は私たちにとっても、本当に素晴らしいものだった」と話していました。この経験はまさに、音楽が私の人生を左右した出来事と言っても過言ではありません。

どのような演奏会も、そのステージで起こることは二度と味わうことができない、一生に一度きりの体験です。生の演奏を聴くことで、楽器を演奏している方、特に吹奏楽部の学生さんなら、次の練習に向かうモチベーションが上がるかもしれませんし、人生をも突き動かすような、すさまじいエネルギーを浴びる特別な日になるかもしれません。偶然にある演奏会を聴きに行ったことにより、留学なんてまるで興味もなかった私が、海を渡る決意をするほど心動かされましたからね。音楽の力はすごいんですよ。演奏会に来てくださった方が何かを感じて帰って頂けるよう、最高の演奏をお届けできるよう努力します。そして自分の人生を変えてくれた音楽への感謝を忘れず、日々、謙虚に真摯(しんし)に、音楽と向き合っていきたいと思います。

プロフィル

わたなべ・そう 1972年、茨城・日立市に生まれる。武蔵野音楽大学を卒業後、愛知県立芸術大学大学院を経て、ドイツ・ミュンヘンのR・シュトラウス音楽院に進んだ。その後、アウグスブルク市立歌劇場オーケストラで研修生として研鑽(けんさん)を積み、帰国後はフリーの演奏家としてオーケストラを中心に活動。2018年に東京佼成ウインドオーケストラに入団した。