男たちの介護――(9) 小谷正臣さんの体験を読んで 津止正敏・立命館大学教授

二つには、一人で育児と介護の両方を同時に担うという「ダブルケア」の課題です。小谷さんの抱えた課題そのものです。46年前からの娘さんの育児・介護に加えて5年前から奥さまの介護も始まり、さらには去年には娘さんのがんの看病も加わります。育児も介護も、保育や介護保険など、それぞれ独自の社会政策が成立していますが、その課題を両方同時に担わなければならない人たちがいるということは、あまり認識されてこなかったと思います。内閣府の「育児と介護のダブルケアの実態に関する調査」(2016年)は初めて政府および政策としての課題認識を示したものですが、その担い手人口は約25万人(男性8万人、女性17万人)と推計されています。障害者家族だけでなく、晩婚化や晩産化、そして非婚化というライフスタイルがもはや特殊・例外的な意味合いを持たなくなっている時代の悲鳴が「ダブルケア」というテーマからは聞こえてきます。

教えられたことの三つ目は、「介護」ということの深遠さです。私の知人からの受け売りですが、英語の“care”(ケア)にはとても深いことが含意されているといいます。“I care about you”とは“I love you”という意味にもなり、逆に“I don’t care”は“どうでもいい”ということになるというのです。現在では、ほぼ日本語化した“ケア”という単語を、「世話をする」ことくらいにしか理解していなかった私には、とても新鮮だったことを覚えています。“care”には人と人の本質的な関係性を包含するような、もっと豊かで深い意味があるのでしょう。「私が晶ちゃんの病院、付き添うよ!」と言ってくれた上野亜由美さん=仮名=。「あなたのことを放っておけない」と言われた小谷さんは、きっと天にも昇る気持ちになったに違いありません。“care”が紡ぐコミュニティーです。

夫婦は「異体同心」、という小谷さんご夫婦のこれからが平坦でなくとも、お二人の幸せへの道程であることを心から祈っています。

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