「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年(24)番外編8 文・黒古一夫(文芸評論家)

明るい未来にするために小説から学ぶ

画・吉永 昌生

原発で生じる使用済み核燃料の最終処分場が、陸軍(自衛隊)が管理する演習場の地下に建設されているのを黙認するのも、また軍隊(自衛隊)が「積極的平和維持活動」の名の下で海外に出動していくのを当たり前と思うのも、皆が「欲」に目がくらんだ結果だ。そう考えた作者は、作中の別な箇所でフクシマから35年後の軍隊(自衛隊)内部に、1960年代のベトナム反戦運動で使われた「殺すな! 殺されるな!」の言葉が生きている事実をさりげなく書き込んでいる。

これは、目先の「欲」に振り回されている間に、体制(権力)に「異議あり」の意見を突き付けることの大切さを忘れてしまっているように見える。まさに、現在の私たち国民に対する作者の根源的な違和感の現れと言っていいだろう。

物語には、「戦後100年、いまこそ平和の精神を未来の世代に受け継ごう!」を呼び掛ける市民運動が登場する。「通りがかりに彼らのチラシを受け取ろうとする人は、めったにいない」の言葉が、フクシマから35年後の世界において「政治への無関心」は世代を超えて広がり、その結果として全体主義(ファシズム)的国家に変質してしまったことを如実に物語っている。

しかし同時に、本当にこれでいいのか、といった作者のいら立ちを含んだ警告もこの長編には書き込まれている。あまり知られていない長編だが、原発推進に向かう現政権と、日本で暮らす私たちとの関係を、もう一度冷静に考える上で、大いに読まれてしかるべき小説にほかならない。

プロフィル

くろこ・かずお 1945年、群馬県生まれ。法政大学大学院文学研究科博士課程修了後、筑波大学大学院教授を務める。現在、筑波大学名誉教授で、文芸作品の解説、論考、エッセー、書評の執筆を続ける。著書に『北村透谷論――天空への渇望』(冬樹社)、『原爆とことば――原民喜から林京子まで』(三一書房)、『作家はこのようにして生まれ、大きくなった――大江健三郎伝説』(河出書房新社)、『魂の救済を求めて――文学と宗教との共振』(佼成出版社)など多数。近著に『原発文学史・論――絶望的な「核(原発)」状況に抗して』がある。

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