男たちの介護――(2) 50年間連れ添った妻が脳腫瘍に 突然始まった介護

辛抱強いなぁ、ユキは……

妻をトイレに連れて行こうとした時だった。妻の足が前に進まず、夫婦で廊下に倒れ込んだ。山田房雄さん(81)が妻で1歳年下のユキさんの介護にあたったのは5年前、期間は1年間だった。「もう私の力ではどうにもならん。竹中さん(竹中とみこさん・63歳)に電話するよ」。竹中さんは、週に何度も心配して山田家に様子を見に来てくれる主任さんである。

脳腫瘍の手術後、1カ月半の放射線治療を受けたユキさんは、自力での歩行が困難になった。平成25年9月、病の発覚から8カ月半後のことだった。「竹中さんに迷惑を掛けるから、やめて!」。妻の頼みも理解できたが、それを受け入れる余裕は房雄さんにはもうなかった。

電話した数分後、竹中さんが駆けつけ、ユキさんをトイレに連れて行ってくれた。ベッドに戻り、竹中さんが話し掛けた。「私でよければ、いつでも呼んでくださいね」。涙がユキさんの頬を伝って落ちた。

その2カ月後にも転倒し、ユキさんは再入院することになる。病院までバスと電車で1時間。電車に揺られながら、夫婦で過ごした日々が思い返された。定年後、自分を家に残し、教会や会員宅に行くユキさんに厳しくあたったこともある。〈好きなことをもっとさせてあげれば良かった〉。

再入院したその日、主治医から告げられた。「手術をしても余命は3カ月です」。リスクも伴うと主治医から言われたが、房雄さんは手術を選択した。一日でも長く生きてほしかったからだ。手術後も房雄さんは毎日、昼食の時間に合わせて病院を訪れ、食事を一口ずつ食べさせた。わずかに開いた口元にスプーンで食べ物を運んでも、こぼしてしまう。もどかしさを感じたが、こうも気づいた。〈一番つらいのは、体を動かせなくなったユキだろう……。辛抱強いなぁ、ユキは〉。