「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年(23)番外編7 文・黒古一夫(文芸評論家)

社会の片隅から立ち上がる人々を描く著作

画・吉永 昌生

「2002年秋、80万人の中学生が学校を捨てた!」。このコピーが帯文に躍る村上龍の『希望の国のエクソダス』は2000年に出版された。

この小説は、地雷除去のためにアフガニスタンに渡った16歳になる日本人少年の、「日本には何もない、もはや死んだ国だ、日本のことを考えることはない。すべてがここにはある、生きる喜びのすべて、家族愛と友情と尊敬と誇り、そういったものがある」との言葉から始まる。そして、「ナマムギ」を名乗る彼らに刺激された国内の中学生80万人が、誰に命令されたわけでもなく一斉に「不登校」を決意し、「学校」という教育制度に反逆を開始する。

「不登校」を実践した中学生たちに共通する認識は、中心人物の一人「ポンちゃん」が発した「この国には何でもある。本当にいろいろなものがあります。だが、希望だけがない」という言葉に集約されている。

最終的に、「日本国」に絶望した中学生たちは、身につけたインターネット技術を駆使して「巨万の富」を手に入れる。そして、その資金を使って数十万人規模で札幌と千歳の間の「野幌」に移住し、地域通貨「EX(イクス)」を発行。風力発電をエネルギー源とする、それまでに類を見ない「共同体」を建設する。

既得権益を守ることに汲々となって“現実”を見ない「日本」。その状況に絶望し、ならば自分たちで「理想の国」をつくってしまえ、という作者の熱い思いがこの小説から伝わってくる。閉塞(へいそく)感が極まったような今日こそ、読む年代層のそれぞれにとって重要な示唆を与えてくれる長編だと思う。

プロフィル

くろこ・かずお 1945年、群馬県生まれ。法政大学大学院文学研究科博士課程修了後、筑波大学大学院教授を務める。現在、筑波大学名誉教授で、文芸作品の解説、論考、エッセー、書評の執筆を続ける。著書に『北村透谷論――天空への渇望』(冬樹社)、『原爆とことば――原民喜から林京子まで』(三一書房)、『作家はこのようにして生まれ、大きくなった――大江健三郎伝説』(河出書房新社)、『魂の救済を求めて――文学と宗教との共振』(佼成出版社)など多数。近著に『原発文学史・論――絶望的な「核(原発)」状況に抗して』がある。