TKWO――音楽とともにある人生♪ テューバ・小倉貞行さん Vol.2

中学で吹奏楽部に入部し、音楽家人生をスタートさせた小倉貞行さん。高校でプロ奏者を意識し、「衝撃を受けた」というテューバソリストのロジャー・ボボさんの下で学びを深め、東京佼成ウインドオーケストラ(TKWO)に入団した。心に残るTKWOでの活動、小倉さんの求める音楽家像とは。

音楽観が一変したマエストロ・フェネルとの出会い

――フェネルさんから受けた影響は

フェネルさんが来られるまで、日本の指揮者からは、「テューバがあまり聞こえるとうるさい」「邪魔な音だ」と言われ、テューバの音を抑えるように指示されることが多かったですね。メロディーが聞こえるようにということなのでしょう。しかし、フェネルさんは、テューバなどの低音楽器の音色の上にフルートやクラリネット、トランペットといった高音楽器のメロディーが乗り、どの音もうまくブレンドされる作り方を追求されました。

専門的には、例えば「一つの和音」と思って聴かれる中に、実は複数の音が含まれて音色を生む「倍音」がよく聞こえ、高さが異なる複数の楽音が同時に響く「和音」の作り方をされていたと言えばいいでしょうか。そのため、音がブレンドされている限りは、テューバの音量を比較的大きく出してもいいという考えでした。それ以前の佼成ウインドの演奏は、メロディーをとにかく大事にする演奏だったように思います。今のようなピラミッド型のバランスのハーモニーになったのは、フェネルさんの影響がとても大きいと思います。

また、多くの指揮者は楽器奏者に、「指揮を見て」と言うのですが、フェネルさんはよく「聴いて」と指示していたのも印象的です。演奏中、指揮を見てばかりいると悪い意味で視覚的に入ってくる情報が多くなり過ぎます。ですから、指揮を直視せず、指揮を視界に捉えているぐらいの方が聴くことに集中でき、演奏がよくなります。フェネルさんの指揮は、全ての指示を事細かに出すという方針ではなく、ポイントを意識して指揮棒を振る感じでした。普段から言葉は多くない方でしたが、指揮だけで思いの全てを表現できるのは、本当にすごかったですし、調和を保ちながらも伸び伸びと演奏させて頂くことがきました。

――フェネルさんは厳しい方でしたか

音楽と向き合う姿勢は、厳しかったですね。フェネルさんは常々、演奏家は作曲家が書いた作品を再現するものであって、それを変えてしまうことはよくないと言っていました。そのため、その音楽に自分の色を加えたり、作曲家の上をいくような音楽性を出そうとしたりすることは作品を冒とくし、尊敬の念を失した行為で絶対にしてはいけないとの考えでした。私自身、フェネルさんの音楽との向き合い方や指揮者のあり方など、その音楽性を含め、とても多くのことを学ばせて頂きました。このことによって、指揮者や演奏家の姿勢や思いが、観客の皆さんに敏感に伝わるのだとも気づかされました。

佼成ウインド創立30周年記念し行われた小倉氏(左)、フェネル氏(中央)、サクソフォーン奏者でコンサートマスター(当時)の須川展也氏(右)による鼎談

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