バチカンから見た世界(112) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

政情不安のアフガンから東京パラリンピックに参加した2人の選手

イタリアには、「オオカミは、毛が生え変わっても悪癖は直らない」という諺(ことわざ)がある。オオカミは季節的に換毛するが、他の動物を襲うという本能を失うことはないということから、「表面的な変化を見せても、本質は変わらない」という意味で使われる。さて、8月15日に「アフガニスタン・イスラーム首長国」の樹立を宣言したイスラーム主義勢力のタリバンはどうだろうか。

1996年から2001年までタリバンが統治していた時、タリバンは聖典の柔軟な解釈を拒否し、復古主義的で厳格なイスラーム主義を掲げ、近代的な人権を制限した。特に女性が仕事をしたり、教育を受けたりする権利を制限するなど、その尊厳を奪った。今回、再び全土を掌握したタリバンは、「米軍や他の諸国の軍隊(北大西洋条約機構=NATO)への協力者に報復しない」「イスラーム法の範囲内で女性の権利を尊重する」「アルカイダ、イスラーム国といった、あらゆるテロ組織を受け入れない」(タリバン報道担当ザビフラ・ムジャヒド幹部)などと公約している。国際社会は、穏健派に変貌した姿勢を強調するタリバンの動きに注目している。

だが、8月24日、スイス・ジュネーブで開かれた国連の人権理事会緊急会合の席上、国連のミシェル・バチェレ人権高等弁務官が「タリバンによる市民の処刑や女性への制約など信頼できる報告を受けた」(同日付ロイター通信)と明かした。一方、ムジャヒド報道官は同日、「一時的な措置」としながらも、「女性(公務員)は自宅で待機し、職場に行かないように」と呼びかけ、その理由として「治安部隊が、女性への対処、対話の訓練を受けていないため、女性の安全を十分に保障できない」(同日付ANSA通信)というものだった。また、この時、外国人やアフガニスタン人の国外退避が続くカブール空港では、「イスラーム国」(IS)を名乗る過激派組織によるテロ攻撃が恐れられていた。

こうした情勢の中、24日に第16回夏季パラリンピック東京大会が開幕した。同日、共同通信はこの報道の中で、「障害の有無など多様性を認め合う『共生』を目指し、社会を変える契機にできるかどうか」とその意義を問いかけた。大会にアフガニスタンからは2人の選手が参加することになっていたが、政治情勢の不安から出場を断念し、開会式にその姿はなかった。厳格なイスラーム主義を掲げるタリバンが1996年から2001年まで同国を統治していた時、スポーツを厳しく規制し、特に社会進出につながる女性のスポーツへの取り組みを認めなかったことが大きく影響したと伝えられる。開会式では、2人の選手への連帯を表明するため、代わりに国連のボランティアが同国の国旗を掲げ、行進した。