気づきを楽しむ――タイの大地で深呼吸(52)最終回 写真・文 浦崎雅代(翻訳家)

夫は移住前、「僕は森のニワトリになりたいんだ」と語っていた。養鶏場のニワトリではなく、自由に生きていく森のニワトリのように、もっといろいろなことに挑戦しながら生きていきたい、と。彼は実際に日々、体と心を使って、楽しみながら新しいことに挑戦している。もちろん全てが思い通りにいくことはないのだが、家を作るにしろ、料理を作るにしろ、今自分ができることを精いっぱいコツコツとやっている。彼の姿勢が、「家はこうあるべき」とか「料理はこうあるべき」といった私の固定観念を外してくれた。

そしてもう一人の家族。現在7歳の息子もまた、私の心を支えてくれる存在だ。自然の中で伸び伸びと遊び、絵を描いたり、動物と戯れたり、植物を観察したりして、自分の好きなことに集中している。トラックやトラクターなどの働く車が大好きな彼は、よくそれらの絵を描いていたが、加えて現在は、森にすむ動物たちの絵をよく描くようになった。トリ、トカゲ、ヘビ、リスなどの姿を真っ先に見つけて「お母さん、〇〇がいるよ!」と教えてくれるようにもなった。また時には、それらの動物たちの亡きがらを見つけることもある。その時は私と一緒に土に埋めて、お祈りをする。生き物の生きている姿だけではなく、死んでしまった姿からも、親子でいのちについて学ぶ機会となっている。

食事中、庭に出現したヘビを家族で観察。自然豊かな環境ならではの一幕だ

私自身は都市で育ったため、子供の頃、あまり土に触れることはなかった。今、息子と一緒にそうした「いのちの学び」ができるのは、私自身が「いのちを生き直している」と言えるのかもしれない。

これまで『気づきを楽しむ――タイの大地で深呼吸』というタイトルでお届けしてきたが、家族をはじめ、穏やかに一つ一つの気づきを大切にしながら暮らしているお坊さまたち、そして善き友たちの存在が、今の私を支えているのだと改めて確認できる機会であった。

これからもこの大地で、私自身のいのちのお役目が尽きるその瞬間まで、気づきを楽しむ人生を歩んでいきたいと思う。最後までお読みくださり、本当にありがとうございました。

プロフィル

うらさき・まさよ 翻訳家。1972年、沖縄県生まれ。東京工業大学大学院博士課程修了。大学在学中からタイ仏教や開発僧について研究し、その後、タイのチュラロンコン大学に留学した。現在はタイ東北部ナコンラーチャシーマー県にある瞑想修行場「ウィリヤダンマ・アシュラム」(旧ライトハウス)でタイ人の夫と息子の3人で生活している。note(https://note.mu/urasakimasayo)にて毎朝タイ仏教の説法を翻訳し発信している。