気づきを楽しむ――タイの大地で深呼吸(31) 写真・文 浦崎雅代(翻訳家)

全てが完璧に揃う日は来ない――時間とお金と健康と

今、夫・ホームさんと息子・3Gの家族3人で、私の実家がある沖縄に2週間ほど帰省している。今回の目的は二つ。お盆の時期に沖縄で一人暮らしをする高齢の母のもとを訪ねること。私の妹の家族に会い、互いの子供同士が触れ合う時間を持つことだ。タイに住む私たちは、直接会う機会が少ない。特に5歳の息子にとって、幼い頃にいとこたちと会って遊ぶ時間は非常に貴重なので、毎年、最低でも1回は家族で会えるように心がけている。

沖縄に着いて早々、私と妹は両家族での夏休み合宿を企画。私が幼い頃に訪れた祖母の家に似た、屋根に赤色の瓦を葺(ふ)き、縁側を広く取った、沖縄の風合いが感じられる村営の宿があったので、数日貸し切りで宿泊した。子供たちが虫かごを持って蝶々(ちょうちょう)を追い掛けたり、自転車に乗ったり、夕方にはバーベキューをしたりと楽しい時間を過ごすことができた。

実はこうした時間を持つように私が意識し始めたのは、日々、翻訳しているパイサーン・ウィサーロ師(森の寺「スカトー寺」の住職)の説法のおかげである。ある説法に深く共感したからだ。テーマは『全てが完璧に揃(そろ)うことは、ない』。内容を要約してお届けする。

「ある方の、こんな考察があります。

『私たちは若い時は、健康があり、時間もあります。しかし、お金はあまりありません。中年になってくると、健康はあり、お金も増えてきますが、時間はあまりありません。高齢になってくると、お金もあり、時間もありますが、今度は健康がありません。』

こうした考察は、私たちの人生に大切な警告をしてくれるものでしょう。若い時というのは〈私は健康で、私には時間がまだまだある〉と思いがちです。〈たとえお金はあまりなくても、健康や時間はある〉と思ってしまうのです。ですから、健康も時間もたくさんあると油断して、無駄にしてしまうことも少なくありません。そして、意義のある事、例えば知識を身につけたり、修行をしたりということにはあまり関心を向けずに過ごしてしまいます。

時間があると思っているうちに中年になり、自由になる時間がどんどん少なくなっていきます。なぜなら、お金を稼ぐための仕事にどんどん時間が割かれていってしまうからです。お金は増えていくでしょう。しかし自由になる時間がどんどん減っていきます。ゆっくりと遊びに行く時間は少なくなるでしょうし、修行の時間もない、と思うでしょう。仕事に縛られる時間がとても多くなっていきます。多くの人が、こんな言葉を口にします。『時間がない、時間がない』。この言葉を口にする人の多くが中年世代、働くことに精を出している世代ですね。

まだ健康で体が十分に動いている間はお金のためだけに仕事をし、修行に行く時間を持たない。あるいは、お金があるからと遊んでばかりいる。お金も健康もあるうちに、有意義なことをやっていくということ。それはとても大切なことですよ」

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