気づきを楽しむ――タイの大地で深呼吸(26) 写真・文 浦崎雅代(翻訳家)
晴れの日は、良い天気?――感受に惑わされずに感受を知る
4月は新年度の始まり。桜があちこちで咲き誇るこの季節は、タイに住む私にとっては日本が最も恋しくなる季節だ。こんなお花見シーズンで気になることの一つが、お天気ではないだろうか? 美しい桜を良い天気の下で味わいたい、そんな願いを誰もが抱くだろう。さて、今月はそんな「良い天気」にまつわる私のタイでの体験と、そこからの学びをお伝えしたいと思う。
「良い天気」と聞いて、皆さんはどんな天気を思い浮かべるだろうか? きっと、青空の下、日の光が穏やかに注ぐ晴れの日を想像するのではないかと思う。しかし、ここタイでは、晴れの日イコール良い天気ではない。そのことに気づいたのは、夫のある一言だった。夫が「今日は良い天気だね」と言ったその時の空は、真っ白い雲に覆われた曇り空。良い天気は晴れ! と思い込んでいた私は、その時初めて、彼らにとっての良い天気は、日本でのそれとは基準が違うのだと知った。
タイの三つの季節のことを指して、冗談で「ホット・ホッター・ホッテスト(hot-hotter-hottest)」といわれることがある。そのくらい暑い。つまり晴れの日ばかりが続くと、もう晴れの日は良い天気ではなくなってしまう。太陽の光も差さず、かといって雨も降らない、曇りの穏やかさ、それは彼らにとっては貴重な「良い天気」なのだ。
確かに私もタイに長く住むようになると、彼らの感覚に近くなってきた。今では、曇りの日が心地良く感じる。何を良しとするのかは、その地域や社会で違うものだと、頭では分かっていたけれど、感覚の変化によって天気の印象まで変化した自分に、正直驚いている。