バチカンから見た世界(62) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

アジアであおられる「文明の衝突」――家族ぐるみによる悲惨なテロ事件

インドネシア東ジャワ州の州都スラバヤで5月13日、キリスト教の3教会を狙った自爆テロが発生した。ローマ教皇フランシスコは同日にバチカン広場で行われた正午の祈りの席上、この事件に言及。「愛するインドネシア国民、特に、甚大な被害を受けたスラバヤのキリスト教の共同体への連帯」を表明し、犠牲者とその家族のために祈りながら、広場に参集した信徒たちに「このような暴力行為を止め、全ての人々の心の内に憎悪と暴力ではなく、和解と友愛の感情が宿るように平和の神に祈ろう」と呼び掛けた。

スラバヤでの連続自爆テロは、これまでにない全く新しい形態――夫妻と4人の子の一家6人による犯行だったのだ。この日の早朝、18歳と16歳の2人の息子がスラバヤのカトリック教会入り口の階段に向けて爆弾を搭載したオートバイを走らせ、自爆した。その5分後には、彼らの母親(43歳)が、12歳と9歳の娘と共に、カルバン派教会(プロテスタント)で自爆テロに及んだ。さらに、彼らの父親(48歳)が爆弾と共に自動車で、ペンテコステ派教会(プロテスタント)に突っ込んだのだ。この一家による犯行で、13人が犠牲となり、40人以上が負傷した。

国際テロ組織「アルカイダ」の地方組織として結成され、後に「イスラーム国」(IS)を名乗る過激派組織に忠誠を誓うようになったグループに、この父親は所属していた。家族はシリアでテロ攻撃の訓練を受けていたと報じられている。それを裏付けるように、3カ所のキリスト教教会に対する連続自爆テロに関して、ISが犯行声明を出した。イラクやシリアでのISの戦いを支援するために、インドネシアから両国に渡ったフォーリン・ファイター(外国人戦闘員)は、約1000人と推定されている。イラクやシリアでISが敗退したことにより、彼らが母国に帰還し、その土地でイスラームを利用(あるいは悪用)して「聖戦」(ジハード)を唱える過激主義者(聖戦主義者)のグループに入り、諸グループ間での覇権闘争を展開しているという。欧州での報道によれば、インドネシアではここ数年来、IS系のグループがアルカイダ系の組織を凌駕(りょうが)しつつあるとのことだ。