バチカンから見た世界(59) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

トーラン枢機卿は滞在中の18日、メディーナとマッカの「二大聖地の守護者」とされるサルマン国王と会談し、席上、KAICIIDを含めて、「サウジアラビアの他宗教、特に、キリスト教への融和的で、オープン政策が取られていること」に感謝を表明した。また、「宗教を政治的に利用することが、いかに害をもたらすか」「現代世界からの挑戦に応えていくために、誠実な対話がいかに重要であるか」と語り、平和と正義は不可分の関係であるとして「若き世代に対する平和教育の重要性」を力説した。国王の横に着座したサルマン皇太子とアルイーサ事務局長も、こうした枢機卿の発言に耳を傾けていた。このほか、トーラン枢機卿は、過激主義対策グローバルセンターや「シューラ」と呼ばれる諮問評議会も訪問した。

サウジアラビアでは現在、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子によって改革開放政策が進められているが、かつてバチカン外相を務めたトーラン枢機卿は滞在中、宗教の在り様、諸宗教の価値や平等性についてさまざまに発言した。アルイーサ事務局長との懇談では、「宗教は提案されるべきもので、絶対に強要されてはならず、受容も、拒否もできる性格のものである」と強調。「全ての宗教は、差別なく、同様の方法で扱われるべきで、諸宗教の信徒たち、信仰を持たない人々は共に、同等の“市民権”を有する」とし、諸宗教の「礼拝場所の建設に関する共通の原則」が定められるよう求めた。イスラーム以外の諸宗教が教会や寺院、礼拝の場を建立する際、全ての宗教に同等の権利を認めるようにとの、バチカン側からの要請だった。

宗教の多様性を尊重することは、「われわれの信仰について再考することへの招きである」との考えを示し、「あらゆる誠実な諸宗教間の対話は、自身の信仰を告白することから始まる」と発言するなど、信頼醸成を図るサウジアラビアのイスラーム指導者への配慮も欠かさなかった。

米国の「FOXニュース」は5月4日、中東のメディアからの情報を引用しながら、「サウジアラビアはバチカンとの間で、王国内にカトリック教会の建設を認めるという歴史的な合意を結んだ」と報道した。トーラン枢機卿のサウジアラビア訪問の成果として報じるFOXニュースだが、この類のニュースは、一キリスト教指導者がサウジアラビアを訪問した際には必ず流される。ただし、実現されたという話はいまだ聞かない。