バチカンから見た世界(59) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

ムスリム世界連盟との対話機関を常設――バチカン

イスラームで最も聖なる地とされるサウジアラビア・マッカ(メッカ)に本部を置くムスリム世界連盟の招きで、4月14日から20日まで同国を訪問した、バチカン諸宗教対話評議会議長のジャン・ルイ・トーラン枢機卿。滞在中、ムスリム世界連盟とバチカンが対話を重ねていくための常設の機関を設けることについて話し合い、トーラン枢機卿とムスリム世界連盟のムハンマド・アルイーサ事務総長が合意書に署名した。

合意された内容は、常設の対話機関が2年ごとに特定のテーマを掲げた総会を開くというもの。総会は、ムスリム世界連盟とバチカンの代表者で構成され、毎年召集される合同委員会によって準備される、と定められた。ローマと、ムスリム世界連盟が定める地で交互に行われることも決定した。

トーラン枢機卿は、諸宗教間に橋をかけるため、イニシアチブを発揮するムスリム世界連盟の取り組みをたたえながら、宗教に名を借りたテロ、さらにその元にある諸宗教に対する無知を克服するため、「教育機関が(諸宗教に関する)真理を教える」という活動の必要性に言及。新しく設立される対話機関が、この課題に優先的に取り組むべきとの考えを表明した。

サウジアラビアは宗教間、異文化間の対話促進を目的に2012年、オーストリア、スペイン、さらにオブザーバーとして加わったバチカンと共に、「アブドッラー国王宗教・文化間対話のための国際センター」(KAICIID)を創設した。ただし、事務局はウィーンに置かれた。今回のバチカンとの合意書は、マッカに本部を置くムスリム世界連盟との間で交わされたものであるだけに、サウジアラビアが諸宗教に対して進めているオープンな政策が浮き彫りになったと言えるだろう。

また、サウジアラビアのワッハーブ派はイスラーム・スンニ派の中でも戒律が厳しく、欧州では時に「原理主義」と見られる傾向にある。特に、敵視されてきたキリスト教、それも、「イスラーム国」(IS)を名乗る過激派組織によって標的とされているバチカンとの合意書であるということも、サウジアラビアの改革に関して無視できない事実だ。