栄福の時代を目指して(24) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

画・国井 節

「世界難と国難」という重層的エネルギー危機――真実への覚醒を

何重もの国難の到来について毎月、警鐘を鳴らしてきたが、いよいよ生活と事業の危機が迫ってきた。これは、国難というだけではなく、世界的な危機であるが故に、「世界難」でもある。でも国内のメディアはその深刻さをあまり報じていないので、気づいていない人が多いだろう。

これまで辛(かろ)うじてエネルギー危機の昂進(こうしん)が目立たないできたのは、サウジアラビアからの別ルートによる輸送や、アメリカからの代替的輸入で補ってきたからだ。これらは物価高騰をもたらしているが、政府はこれらの代替的方策で凌(しの)げると装っている。

しかしフーシ派が紅海入り口の要衝ペリム(マユン)島を制圧し、ホルムズ海峡に加えて、紅海航路の安全も脅かされている。さらに、ホルムズ海峡を迂回するサウジアラビアの東西パイプラインも攻撃されて、操業停止に追い込まれた。今では操業は再開されたものの、完全復旧には、なお時間を要する。アメリカの石油備蓄も減少しているので、輸入が困難になるかもしれない。この状態が長期化したり、再び輸送路への攻撃が拡大したりすれば、日本も備蓄原油を使用するなどの対応に追い込まれかねない。政府は国民に真実を知らせ、ガソリン補助金政策をやめて早く節約・省エネ政策に転じる必要がある。

また、8月29日、米軍三沢基地所属のF16戦闘機が3、4月の対イラン作戦のため中東に展開していたとの報道を受け、イランのアラグチ外相は、「平和を愛する日本の人たちは米国の犯罪について、日本政府に説明責任を問うべきだ」との趣旨を述べた。

さらに、国際原子力機関(IAEA)理事会決議に日本が賛成したために、イラン外務省のバガイ報道官は「IAEA理事会の反イラン決議に賛成票を投じたサウジアラビア、日本、ヨルダンは、その結果を思い知ることになる。我々は3カ国に責任を取らせる」と述べた。これは、通常の核査察拒否問題ではない。イラン側は、IAEA理事会決議や事務局長報告が軍事攻撃を正当化・促進するために利用されてきたと主張して反発したのである。

日本政府のアメリカ追随にもかかわらず、イランは歴史的友好関係に鑑(かんが)みて、激しい対日批判をこれまで避けてきた。今回、攻撃しているサウジアラビアとヨルダンとともに、名指しで日本に「責任を取らせる」と発言するのは、衝撃的だ。対日姿勢が厳しくなり、ホルムズ海峡の日本船舶通過に対しても厳しい態度に出る危険性を懸念せざるを得ないからだ。

通貨や金融などの経済問題も含めて、政権が危機を昂進させているのは、その極右的イデオロギーに起因すると同時に、そもそも高市早苗首相に危機的事態への対処能力が不足しているからだ。ポピュリズム政治の常として、政権は、実効的な政策を講じずに、相変わらず人気取り政策やプロパガンダを続け、真実を国民の目から隠し続けている。作り出されているその幻夢から早く醒(さ)めないと、被害はどんどん拡大してしまう。

理念を蔑(ないがし)ろにした中道改革連合の崩壊――「NOと言える政治」の再生を

あまりに中道改革連合の支持が低下したために、立憲民主党では統一地方選挙に対する危惧から三党合同論に対する反対が高まり、合同しないことを決めた。この結果、公明系議員は公明党に加入することを決め、立憲系は離党して「民主改革の会」を作り、中道改革連合には残務整理のために1人だけ残って、事実上は解体した。

先月に書いたように、暴政に対して批判的な議員が議会に残ることは民主主義と平和のために大事だから、立憲民主党が三党合同を断ったのは国民のために正しい判断だ。中道改革連合の執行部に「明るい将来はないだろう」と書いたが、その通りの結果が生じている。ただ、民主主義や平和を希求する政党や議員がバラバラになってしまい、横暴な政治に対する抑止力をますます失った。

希望を甦(よみがえ)らせるためにもっとも肝要なのは、中道改革連合が破綻した原因を認識することだ。先月に書いたように、総選挙後には6%以上あった支持率がどうして1%台に下落してしまったのか。この政党が右派政党になってしまい、強権政治を徹底して批判せずに、妥協ばかりを繰り返したからだ。政権が横暴である以上、それに抵抗することが、心ある政治家の務めである。その責務を果たさなかった故に人々は失望した――それが解体の主因に他ならない。

私から見ると、大事なことは、この政党の理念が誤っていたから崩壊したわけではないということだ。逆に、理念を真剣に政策として現実化しなかったところに解体の原因が存在する。たとえば、「生活と平和を守るために――イランとの友好的外交による船舶通過の実現を求めます」という署名運動の理念は、この政党と大きく重なっている。そして、この理念を現実化すれば、イランとの友好的外交を主張してアメリカ追随外交を批判することになる。ところが、野党第一党が「現実主義」の名のもとに与党に妥協を繰り返したため、人心が離れたわけである。その一因は、「民主改革の会」という後継政党の名称にも現れているように、執行部はじめ中心に確固たる理念が保持されていなかったことだろう。

よって、必要なことは、新しい理念を改めて錬磨し、政治家たちが体得して、それに基づいた政策へと刷新することだ。極右的な暴政に対する結集軸として求められるのは、不動の価値理念に基づき、渾身(こんしん)の気迫と勇気をもって不法や横暴に対してNOといえる政治である。かつて右派政治家・石原慎太郎氏が、アメリカに対して「NOと言える日本」を主張した。あるいは、社会党の土井たか子氏は「ダメなものはダメ」といって、マドンナブームを引き起こした。同じように、国内では倫理的に不正な政権に対して、また国際的には超大国に対して、NOと言うこと、ダメと叫ぶことが、いまはもっとも大事だ。

先月は、このような政治を、「中道左派」を軸とする中道バージョン2と表現した。その後の展開を踏まえて考えると、大事なのは、まず理念と価値を新生させ、それに共鳴する人々の結集をつくることである。それによって初めて、混迷を極める日本政治に希望の政治が甦り得るだろう。中道改革連合の元来の理念に基づいて、「生活と平和への結集」と呼んでもいいだろう。そのためには、熟議と情熱的な政治的挑戦が必要だ。救国の志士が必要だ。国を救うための英雄やヒロインが、人々が幻惑されている迷妄の闇を払う物語が始まることを願いたいものだ。

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