忘れられた日本人――フィリピン残留日本人二世(11) 写真・文 猪俣典弘

日本人の父親が殺害され、隠れるように生きてきた残留日本人二世の話を聴く猪俣氏。壮絶な戦争体験に触れるたび、絶対非戦の大切さをかみしめる

戦後78年。命の尊さ、平和の大切さを伝えていく使命

防衛費の倍増が招く事態を憂慮

昨今、日本は防衛力の強化を加速させています。政府は昨年、2027年までに防衛費をGDP(国内総生産)の約2%、5年間で総額43兆円ほどにすることを決定。これは、年間軍事費を約10兆円に押し上げ、米国、中国に次ぐ世界第3位の規模です。岸田文雄首相は、毎年4兆円(300億ドル)の追加予算が必要と述べ、その25%を賄うために増税を提案しました。

防衛力強化が仮想敵国の行動抑止に効果的なのか、むしろ軍備増強は周辺国にさらなる軍拡の口実を与えるのではないか。フィリピンから日本の状況を見ると、地域の平和と安定に逆行していると感じます。そして、日本との過去の歴史を決して忘れていないアジア諸国に与える影響を憂慮しています。

今こそソフトパワーによる安全保障を

防衛力の強化には、軍備増強という「ハードパワー」と、自国の文化や政治的価値観、政策の魅力などで国際社会から信頼、発言力を得る「ソフトパワー」があります。唯一の被爆国であり、国際紛争を解決する手段に武力を使わないと誓う日本は、外交で積極的にソフトパワーを取り入れるべきです。真の民主主義を希求し、差別を撤廃して人権を尊重する。こうした確固たる姿勢、価値観を示すことで得る世界からの共感、尊敬は、平和への道筋となって日本の安全保障につながります。

しかし、今の日本は、その正反対に舵(かじ)を切ろうとしています。