忘れられた日本人――フィリピン残留日本人二世(10) 写真・文 猪俣典弘

昨年12月20日、UNHCR駐日事務所とUNHCR国会議員連盟により開催された無国籍の残留二世問題をテーマにした勉強会

国際機関、政府、NPOが連携――「誰一人取り残さない」救済の実現を

2021年4月、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐フィリピン事務所が残留日本人二世(残留二世)に関する報告書を作成しました。この中で、フィリピンに残留した日本人を「無国籍のリスクにある人々」と認め、国家が緊急に解決するべき人道問題として、日本とフィリピンの二国間協議での解決を提言。一年をかけて両国の法律に照らし、残留二世の法的な立場や問題点を整理した報告書の発表は、彼らの存在を国際社会に広く知らせるものになりました。

UNHCR駐フィリピン事務所による残留二世に関する報告書

取り組みを決定したUNHCR駐フィリピン事務所の久保眞治代表は、前任地のバングラデシュでロヒンギャ難民支援に尽力した方です。以前にお会いした時、無国籍のリスクにあるロヒンギャの人々にとっても、「国籍は自分たちのアイデンティティーであり、人生の根幹部分」という話をしてくれました。戦後80年近くも放置され、高齢化する残留二世の状況の深刻さに、彼らのアイデンティティー回復として国籍がいかに切実であるかと深い共感を示し、国籍回復の支援に強い意志を表明してくれていました。

同年5月17日、報告書を通して問題の深刻さを認識した複数の国会議員が議員会館で残留二世問題の勉強会を開きました。その一週間後には、在日コリアンの父を持ち、残留二世の苦難を我が事のように受けとめてくれた白眞勲参議院議員(当時)が、参議院外交防衛委員会の質疑で残留二世問題を取り上げました。

白議員はUNHCRの報告書を示し、今も数百人が無国籍のままフィリピンに残留している状況について外務省に見解を求めました。外務省の岡田恵子審議官(当時)は、「残留日系人の方々は高齢に達しておられ、一日も早く国籍回復が進むようフィリピン政府とも連携しながらさらなる支援に努めたい」と答弁。茂木敏充外相(当時)も、「戦後76年経つと申し立ても減り、資料などがないため認定に至らないケースがある。しかし残留者がいることは事実であり、認定が進むように努めたい」と述べました。

そして、2022年3月10日の通常国会参議院予算委員会では、岸田文雄首相から、「政府、政治の責任として大変重要な課題と認識している。(略)政府一丸となってこうした人々により一層力を入れて取り組みたい」という答弁を引き出すことができたのです。