共生へ――現代に伝える神道のこころ(14) 写真・文 藤本頼生(國學院大學神道文化学部教授)

神話の中にあるSDGsへの足がかり

神宮の式年遷宮では、殿舎などの建て替えに用いられる檜や杉などの木材は、神宮内宮・外宮神域の山林から主に切り出されていた。その後、大径木の枯渇により美濃から信濃へと神宮備林が定められ、現在は木曽・裏木曽(長野県/岐阜県)の国有林から切り出されている。しかし、第62回の神宮式年遷宮からは、大正十二(一九二二)年の森林経営計画に基づいて植樹した内宮周辺にある第二宮域林(神路山・島路山)の檜が柱材に用いる大径木に成長したことから、宮域林からも御用材全体の25%にあたる材木が切り出されて利用された。伊勢神宮でも200年計画で持続可能な開発を目指して神宮式年遷宮の御用材確保の取り組みが進められているのだ。

また、樹木と日本の神との関係についていえば、木の国とも称される和歌山県の伊太祁曽(いたきそ)神社に祀られる五十猛命(=いたけるのみこと。高天原=たかまのはら=から樹木の種を持ち込み、九州から樹木を植え始めて緑豊かな国土を形成した神とされる)が木の神として知られている。その五十猛命も登場する『日本書紀』巻第一、神代上の第八段の「一書(あるふみ)に曰く(第五)」にある素戔嗚尊(すさのおのみこと)の説話には、「乃(すなは)ち鬚髯(ひげ)を抜きて散(あか)つ。即ち杉(すぎのき)に成る。又、胸の毛を抜き散つ。是(これ)、檜に成る。尻(かくれ)の毛は、是柀(まき)に成る。眉の毛は是櫲樟(くす)に成る。已(すで)にして其の用ゐるべきものを定む。乃ち稱(ことあげ)して曰(のたま)はく、杉及び櫲樟、此(こ)の両(ふたつ)の樹は、以(もっ)て浮寶(うくたから)とすべし。檜は以て瑞宮(みつのみや)を為(つく)る材(き)にすべし……(以下略)」とあり、素戔嗚尊が髭(ひげ)を抜き放ったところに杉が生え、同じく胸毛からは檜、尻毛からは槙、眉毛からは楠(くすのき)が生えたというもので、さらに素戔鳴尊は、杉と楠で船を造り、檜は宮社を造る資材にせよと述べている。時代は下るものの中世の説話では山は猿、川は蛇という考え方があり(『今昔物語』『宇治拾遺物語』など)、我が国では川を蛇や龍に擬する文化がある。歴史的にも天井川にてたびたび氾濫を繰り返した斐伊川(いいがわ)のことと解釈されることもある八岐大蛇(やまたのおろち)の退治伝承の直後に、大蛇を退治した素戔鳴尊が抜いた髭や毛から樹木が次々と生成する話は、まさに我が国における森づくり、林業の原点というべきものではなかろうか。

詳しくは林業にかかる祭礼などもうかがうべきだが、こうした話が日本神話の中に伝えられているところに、我が国の森林や林業にかかるSDGsのヒントの一つがあるのではないかと小生は考えている。
(写真は全て、筆者提供)

プロフィル

ふじもと・よりお 1974年、岡山県生まれ。國學院大學神道文化学部教授。同大學大学院文学研究科神道学専攻博士課程後期修了。博士(神道学)。97年に神社本庁に奉職。皇學館大学文学部非常勤講師などを経て、2011年に國學院大學神道文化学部専任講師となり、14年より准教授、22年4月より現職。主な著書に『神道と社会事業の近代史』(弘文堂)、『神社と神様がよ~くわかる本』(秀和システム)、『地域社会をつくる宗教』(編著、明石書店)、『よくわかる皇室制度』(神社新報社)、『鳥居大図鑑』(グラフィック社)、『明治維新と天皇・神社』(錦正社)など。

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