共生へ――現代に伝える神道のこころ(10) 写真・文 藤本頼生(國學院大學神道文化学部准教授)

疫病流行を機に行われるようになった祭事

三枝祭は、御祭神の媛蹈鞴五十鈴姫命(ひめたたらいすずひめのみこと)が笹百合を好んだ伝承にちなみ、六月に特殊神饌とともに笹百合の花で飾った酒樽(さかだる)を神前に供え、鎮花祭とともに疫病を鎮めることを祈る祭である。

感染予防として初詣の分散参拝を呼びかける立て看板。三密(密集、密接、密閉)回避のための幸先詣や、節分の前日までを初詣期間と考えて人ごみを避ける参拝が促された

なお、祭礼に併せて氏子らが大蛇を藁(わら)で作り、地域を練り歩いて神社に奉納することで、疫病退散と無病息災、地域の安寧、五穀豊穣(ほうじょう)、雨乞いなどを祈願する祭事が各地に残されている。これは「藁蛇(わらへび)」とも呼ばれるタイプの祭礼で、東京都世田谷区の奥澤神社の「大蛇祭り」や、横浜市港北区新羽町の杉山神社の「注連(しめ)引百万遍の藁蛇」、栃木県小山市間々田の間々田八幡宮の「蛇祭」、三重県津市白塚の八雲神社の「やぶねり」神事などが挙げられる。いずれも江戸時代の疫病の流行に由来して行われるようになった祭事だ。特に「やぶねり」神事は、須佐之男命が退治した八岐大蛇(やまたのおろち)をまねた青竹を束ねて作った「やぶ」を担ぎ町中を練り歩いて悪疫退散を願う行事であるが、見物客が多いため、残念ながら「三密」を避けるために昨年度はやむなく中止となった。

本稿で述べてきたように、いつの時代も感染症の厄難に対し、神社は人々の心の安寧を祈るとともに、さまざまな神事を通じて防疫を願う人々の気持ちに寄り添ってきた。小生は人々の叡智(えいち)と忍耐で、このコロナ禍の中で社会的苦難を一つずつ乗り越え、一日でも早く、再び人々が祭礼で賑わう日が来ることを願ってやまない。
(写真は全て、筆者提供)

プロフィル

ふじもと・よりお 1974年、岡山県生まれ。國學院大學神道文化学部准教授。同大學大学院文学研究科神道学専攻博士課程後期修了。博士(神道学)。97年に神社本庁に奉職。皇學館大学文学部非常勤講師などを経て、2011年に國學院大學神道文化学部専任講師となり、14年より現職。主な著書に『神道と社会事業の近代史』(弘文堂)、『神社と神様がよ~くわかる本』(秀和システム)、『地域社会をつくる宗教』(編著、明石書店)、『よくわかる皇室制度』(神社新報社)、『鳥居大図鑑』(グラフィック社)、『明治維新と天皇・神社』(錦正社)など。

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