利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(25) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

近代西洋文明の動揺という文明論の洞察

アメリカだけではなくヨーロッパ諸国でも極右的政党が伸長し、イギリスのEU離脱によってヨーロッパ統合も暗礁に乗り上げた。

他方で中国は共産党政権の下で市場経済を導入し、経済的に台頭してきている。ペレストロイカによって新生したロシアでは、プーチン大統領のもとで強権化が進行した。

要は、民主主義の母国である英米仏をはじめ、西洋の政治は激しく動揺しつつあり、他方でイスラームや中国、ロシアが別の原理や政治体制のもとで台頭して、アメリカをはじめ自由民主主義国との角逐が激しくなっている。これはまさしく、ハンチントンが危惧したとおりの構図だろう。

もっとも、このような事態を予見していたのは、彼だけではない。文明論者では、両次の世界大戦以来、近代西洋文明の終焉と世界の混乱を想定していた。例えば、イギリスの歴史家アーノルド・トインビーは戦後に、西洋文明が崩壊に向かい、イスラーム文明との衝突が激化することを予想するとともに、中国文明の台頭や地球的文明への移行を予想している。

これまでも文明の過渡期には、紛争や戦争が頻発してきた。世紀転換期に当たる平成時代は、文明の転換期でもあるのかもしれない。だとすれば、混乱や動揺の中で平成時代が終わろうとしているのは、もしかすると新しい文明の産みの苦しみのためなのかもしれない。そういう希望を捨てずに、次の時代を迎えていきたいものである。

プロフィル

こばやし・まさや 1963年、東京生まれ。東京大学法学部卒。千葉大学大学院人文社会学研究科教授で、専門は政治哲学、公共哲学、比較政治。米・ハーバード大学のマイケル・サンデル教授と親交があり、NHK「ハーバード白熱教室」の解説を務めた。日本での「対話型講義」の第一人者として知られる。著書に『神社と政治』(角川新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう』(文春新書)など。

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