利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(19) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

専制権力の打倒と文明開化から学ぶべきことは?

こう大観すれば分かるように、明治維新の最大の意義は、それまでの専制権力を覆し、西洋からの文明を導入して近代日本を出発させたことである。さて、翻って今の日本人がここから学ぶべきことは何だろうか。

まずは専制権力の弊害と、政治的自由の意義を再認識することだろう。ことさらに明治維新を持ち出す政治家たちは、憲法が変わらないからといって戦後の民主主義を江戸の幕藩体制のような封建政治とでも見なしているのだろうか。むしろ、いまの政府の方こそ世襲政治家が多く専制的と批判されているのだから、ここには不思議な逆説がある。もしこの批判が正しければ、それこそ打倒の対象となってしまうのだ。

次に、文明開化の意義を思い出し、学問や教養をはじめ文化や文明を再び前進させようと目指すことだろう。鎖国は海外の展開から日本を遮断し、あやうく植民地化される危機に陥らせた。今の日本では自国をたたえるナルシスティックな言論や番組が大流行だが、自分たちばかりをたたえて他国を軽蔑するような風潮が広がっているのなら、むしろ鎖国時代に似ていることになる。

江戸幕末の志士たちが素晴らしいのは、日本の将来を切り開くために必要なことを見抜く目、先見の明を持っていたということだ。その知恵がなければ、志士たちを殺した新撰組の側になりかねない。眼前の危険は何で、それを回避するための道はどこにあるのか。「新たな時代」とはどのようなものであるべきなのだろうか。西郷どんや龍馬の生涯に感動したら、初めにそれをよく考えてみてほしいものである。

プロフィル

こばやし・まさや 1963年、東京生まれ。東京大学法学部卒。千葉大学大学院人文社会学研究科教授で、専門は政治哲学、公共哲学、比較政治。米・ハーバード大学のマイケル・サンデル教授と親交があり、NHK「ハーバード白熱教室」の解説を務めた。日本での「対話型講義」の第一人者として知られる。著書に『神社と政治』(角川新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう』(文春新書)など。

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