それでいいんだよ わたしも、あなたも(4) 文・小倉広(経営コンサルタント)

性格は変えなくていい

「三つ子の魂百まで」ということわざがあります。小さな頃に形成された性格は年を取っても変わらない、という意味です。

人は、自分の性格を6歳から10歳くらいまでの間に完成させ、それが一生続く、と言われています。まさに、ことわざの通りです。

しかし、私たちに身に付いた性格は、良いものばかりとは、限りません。例えば私の性格の一つに、飽き性で根気がない、というものがあります。私はこれを改めようと、何度も努力を重ねてきましたが、なにしろ53年間も使い続けてきたために、そうそう簡単には変わりません。努力して、根気よくなろう、としても、すぐに三日坊主に戻ってしまうのです。

私は「自分を変えることができない自分」を情けなく思ったものです。あー、自分は、なんてダメな人間なんだ、と。

しかし、心理学を学ぶうちに、そんな自分を受け容れられるようになっていきました。「まあ、仕方ない。性格はそうそう変わるものではない。では、この性格とどのように付き合っていこうか」と。そう、考え方を変えることができたのです。

このように考えられるようになった理由の一つに、物事には必ず陰と陽がある、と知ったことが挙げられます。良い面と悪い面がある、ということを知ったのです。例えば飽き性で根気がないというのは悪い方の側面です。しかし、良い側面として「次々と興味の範囲を広げることができる」「自分に正直であり、ガマンしない」などの良い側面があります。そして、そのおかげで、多くの人にとっては難しいような「新しいビジネス」を開拓、創出したりする「始めるエネルギー」という長所を持っていることに気づきました。

もしも、私が飽き性を卒業して、一つのことをコツコツと長期間続けることができるようになったとしたら、おそらくこの長所までもがなくなってしまうことでしょう。長所と短所は常にセット販売。長所だけを売るバラ売りはしていないのです。

また、無理に性格を変えなくても、行動を変えるだけで、大きな変化があることも知りました。性格は大変変わりにくい。しかし、行動ならば変えることは簡単です。例えば、飽き性な自分を自覚し、「思いついてから即行動しないで1週間延ばしてから決定する」「飽きることを前提に置き、高価な買い物を控える」などは可能です。自分自身の性格の癖に気づくことができれば、性格を変えずに、行動だけを変えることで対処は十分可能なのです。

変わるはずもない性格を無理に変えようとして失敗し、落ち込み、自分を責める。そんなことをするくらいであれば「性格は変えない」と開き直り、その逆側面にある良い側面に着目する。そして、少しずつ「行動」だけを変えていく。それだけで十分な変化です。無理に性格を変える必要は、そもそもないのです。

プロフィル

おぐら・ひろし 小倉広事務所代表取締役。経営コンサルタント、アドラー派の心理カウンセラーであり、現在、一般社団法人「人間塾」塾長も務める。青山学院大学卒業後、リクルートに入社し、その後、ソースネクスト常務などを経て現職。コンサルタントとしての長年の経験を基に、「コンセンサスビルディング」の技術を確立した。また、悩み深きビジネスパーソンを支えるメッセージをさまざまなメディアを通じて発信し続けている。『33歳からのルール』(明日香出版社)、『比べない生き方』(KKベストセラーズ)など多くの著書があり、近著に『アルフレッド・アドラー 一瞬で自分が変わる 100の言葉』(ダイヤモンド社)。