法華経のこころ(19)

質直(しちじき)にして(如来寿量品)

「質」は飾りけがなくてありのままという意味。「直」は、真っすぐで素直なこと。

長男が小学校1年生の時のこと。2学期に父母会があった。出席したお母さんたちは、それぞれ、子供の近況を報告させられた。

「最近、風邪をひきました」「楽しい学校生活を送っています」……なんてことのない話が続く。そんな中で、I君のお母さんの順番になった。I君は、クラスでも“暴れん坊”のレッテルを張られている。I君に小突かれた子供も多い。どんな話をするのか、みんなが注目したらしい。

I君のお母さんは、いきなりこう言った。「うちの子は乱暴者です。さぞご迷惑をかけていると思います。でも、それは私に責任があります」。そして、家庭の事情を説明しだした。離婚してお父さんがいないこと。生活のため自分自身が仕事をもち、なかなか子供をかまってやれないこと。「私の努力不足です。気づいた点があったら遠慮なさらず何でも言ってきてください。……どうかうちの子をよろしくお願いします」。I君のお母さんは、深々と頭を下げた。教室内はシーンとして、次の瞬間、拍手がうずまいたという。

言い訳などしない。体裁をつくろおうともしない。自分を良く見せようともしない。ありのままをさらけ出し、息子のために頭を下げる。女房があの時以来、何度もつぶやいている。「立派なお母さんだったなあ。私もあんなふうになりたいなあ……」。
(J)

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