幸せのヒントがここに――仏典の中の女性たち(10) 文・画 天野和公(みんなの寺副住職)

一方、コーサラ国では、翌朝パティプージカーが死去したことを知った僧侶たちが、今まで奉仕してくれた彼女のことを想い嘆き悲しみました。お釈迦さまは、彼女が天界に転生したことを話し、生きものの寿命はわずかなこと、目の前の欲に満足できず過ごしているうちに、あっという間に死に捕えられることを諭しました。

『花ばかりを摘むことに 心が執着している人は
諸欲に満足しないまま 死神により征服される』(法句経48)

このお話の主題は「欲を満たすことに時間を浪費せず、必要な仕事に励みなさい」ということです。

なお仏教でいう天界は理想のゴールではありません。彼女が一度死んだことからも分かるように、輪廻(りんね)から外れていない有限の世界です。しかし、善行を行い仏法を聞いて悟る可能性があるため、人間界と併せて「善趣(ぜんしゅ)」と呼ばれます。良い行いの結果として転生できる先です。

ですからパティプージカーは人間界での生活も決しておろそかにせず、明るく全うし、清らかな心で生まれ変わっていったと推察できます。

パティプージカーが人間界で過ごした時間は、決して短くはなかったはずです。しかし、彼女にとっては「待つ」過程も、決して苦しいだけの我慢の時間ではなく、天界で暮らすのと同じくらい楽しく過ごせるものだったのでしょう。その強さをとてもうらやましく感じます。

参考文献:ダンマパダ・アッタカター(法句経注釈書)

プロフィル

あまの・わこう 1978年、青森県生まれ。東北大学文学部(宗教学)卒業後、夫と共に仙台市に単立仏教寺院「みんなの寺」を設立した。臨床宗教師でもある。著書に『みんなの寺のつくり方』(雷鳥社)、『ブッダの娘たちへ』(春秋社)、『ミャンマーで尼になりました』(イースト・プレス)など。現在、臨床宗教師に関するマンガを制作中。

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