幸せのヒントがここに――仏典の中の女性たち(4) 文・画 天野和公(みんなの寺副住職)

もう一人、マガダ国のケーマー王妃もまた、老いの姿を見て出家された方です。ケーマー(平安)という名を持つ王妃はたぐいまれな美貌を持つ女性で、彼女自身、その容姿を誇りに思っていました。ですから、「外見の美しさにとらわれてはならない」と説くお釈迦さまに会いに行きたくはありませんでした。否定されるのが怖かったのです。

しかしさまざまな要因が重なり、ついにお寺に足を運ぶ機会が訪れます。そこで王妃の目に留まったのは、お釈迦さまのそばに座る絶世の美女の姿でした。「まるで天女のように麗しい。この方に比べたら、私なんて到底及ばない」。がっくりとうなだれ、再び顔を上げてみると、先ほどよりも女性は少し老けたように見えます。

実はこの女性、お釈迦さまが神通力で出現させた幻でした。まばたきするごとに、女性はどんどん老いていきます。顔にはしわが、髪は白髪が現れ、みるみるうちにやせ細った老婆になりました。そのまま倒れ込んで息絶え、ついには腐って白骨になりました。

ショックを受けているケーマー王妃にお釈迦さまが肉体のはかなさ、むなしさを説くと、王妃はその場で阿羅漢果(あらかんか:最高の悟り)に達し、王宮に戻ることなくそのまま尼僧となりました。

いかがでしょうか。無常である現実を理解したら、決して時間を無駄にできない。本当に大切なものに心は向かうのだと分かります。

私も、このお二人の境地には程遠いですが……。ブツブツ言いながらも変化とうまく共存し、この肉体で過ごす人生を有効に使えればいいなと願っています。

参考文献:ジャータカ第二十二篇541、ダンマパダ第347偈註釈物語

プロフィル

あまの・わこう 1978年、青森県生まれ。東北大学文学部(宗教学)卒業後、夫と共に仙台市に単立仏教寺院「みんなの寺」を設立した。臨床宗教師でもある。著書に『みんなの寺のつくり方』(雷鳥社)、『ブッダの娘たちへ』(春秋社)、『ミャンマーで尼になりました』(イースト・プレス)など。現在、臨床宗教師に関するマンガを制作中。

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