現代を見つめて(70) ニュースで知る紛争 文・石井光太(作家)

ニュースで知る紛争

ロシアによるウクライナへの侵攻が日増しに激化している。メディアが報じるニュースの内容はおぞましく、信じがたいものばかりだ。

原子力発電所に対する攻撃、民間人避難のための一時停戦中の交戦、子供病院への攻撃、核の使用をほのめかすような発言……。特にロシア側の姿勢はあまりに強権的であり、対話による解決の糸口を見いだすのは難しい。

おそらく日本を含む世界の子供たちでさえ、ニュースで知る理不尽な事態に愕然(がくぜん)とした思いを抱いているだろう。読者のみなさんも、若い頃に同じ経験をした記憶はないだろうか。パレスチナ紛争、ベトナム戦争、アフガニスタン戦争、湾岸戦争などのニュースに触れて、大人はなんて愚かなのかと失望した経験があるはずだ。今の子供たちは、まさにそんな目で世界を見ているのである。

この紛争がどのように終結するのかはわからない。しかし、世界にとって重要なのは、未来を担う子供たちの希望を守ることだ。国や人として恥ずかしくない行動をし、小さくてもいいから自分にできることをする。それは政治家だけでなく、国民一人ひとりの役割でもある。正義を貫く毅然(きぜん)とした態度を示せば、子供たちも大人になって同じようにするだろうし、それが数十年後の平和へとつながっていく。

だが今、政治家、有識者、それに私たちの言動は子供たちに希望を与えうるものになっているか。残念ながら、私は不十分だと思わずにいられない。

大国の対立に関して国連の脆弱(ぜいじゃく)さはいつものこととして、あるメディアは国際ニュースでは戦争批判をしつつ、経済ニュースでは「遠くの戦争は買いか」という議論をしていた。紛争で下落した株は買い時か否かということだ。紛争で失われる命をよそに、そんな話をする大人を目にして育った子供たちは、どういう人間になるだろう。

子供はニュースを見る一方で、近くにいる大人たちが何を発言し、何をしているかをひそかに観察している。ウクライナの紛争は「遠くの戦争」かもしれない。しかし、私たちの一言一句が、未来の社会に大きな影響を与えることを忘れてはならない。

プロフィル

いしい・こうた 1977年、東京生まれ。国内外の貧困、医療、戦争、災害、事件などをテーマに取材し、執筆活動を続ける。『アジアにこぼれた涙』(文春文庫)、『祈りの現場』(サンガ)、『「鬼畜」の家』(新潮社)、『43回の殺意――川崎中1男子生徒殺害事件の深層』(双葉社)、『原爆 広島を復興させた人びと』(集英社)など著書多数。

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