利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(39) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)
画・国井 節
緊急事態の延長をもたらしたもの
緊急事態宣言が5月末まで延長された。隣国の韓国などでは収束して経済活動を再開しつつあるのに、日本では死者が増え続けているのは、他の先進諸国と違って、政府がPCR検査を本気で増やそうとしなかった結果でもある。
なかなか検査できずに死んでしまう人が続出した。ようやく検査基準を緩め始めたものの、人命や経済の犠牲は取り返しがつかない。これは、政策の失敗にとどまらず、政府が犯した道徳的罪と言わざるを得ない。
古代における国家仏教の成立
前回(第38回)で触れたように、日本の古代においては疫病の大流行が仏教国の成立へとつながった。疫病や大地震などの災厄は、為政者の誤った行為や政治のためだとする考え方があったので、それを鎮めて国家の安泰を図るために仏法を興隆させたのである。
6世紀には、天然痘の流行を機に、崇仏派の蘇我氏と排仏派の物部氏との合戦が起こり、若き聖徳太子が蘇我氏の形勢不利を打開するために、四天王像を彫って、戦勝を祈願した。四天王を安置する寺院を建立して世の全ての人々を救済すると誓願して勝利したので、四天王寺を建立した。今の本尊は金堂の救世観音で、その周囲に四天王像が安置されている。救世観音と言えば、法隆寺・夢殿の秘仏が有名だ。
8世紀にも、天然痘の流行で為政者だった藤原四兄弟が次々と亡くなり、聖武天皇は護国のために各地における「国分寺建立の詔(みことのり)」を出して、『金光明経』と『法華経』の写経を命じ、全国の国分寺の中心として東大寺大仏を建立した。国分僧寺の正式名称は「金光明四天王護国之寺(こんこうみょうしてんのうごこくのてら)」であり、国分尼寺は、「法華滅罪之寺(ほっけめつざいのてら)」だ。
『金光明経』の中の「四天王護国品」などに、特に護国思想が強く存在している。そこでは、国王がこの経典を恭敬(くぎょう)して受持すれば、国王と人民を守り、飢饉(ききん)や疾病を除き、憂苦をなくして、福徳をもたらす、とされている。