弱小チームから常勝軍団へ~佼成学園高校アメリカンフットボール部「ロータス」クリスマスボウル3連覇の軌跡~(7) 文・相沢光一(スポーツライター)

「連覇」を目標に掲げ、2016年のクリスマスボウル出場から3連覇を果たした佼成学園アメリカンフットボール部「ロータス」。合理的な指導方法と共に、頼れるリーダーが育つ小林孝至監督独自の人材育成システムが、自律した組織を確立していく。

自律した組織づくりに不可欠な幹部教育

2016年、ロータスはクリスマスボウルで関西学院高等学校を破り、初の日本一の座に就いた。小林監督が部の指導を始めて23年目にやっとたどり着いた栄冠だ。

どの競技でも日本一になるのは1チームだけであり、有力校がしのぎを削る中、そこに到達するのは至難の業だ。悲願だった日本一の座に就いた時の心境について小林監督は、「長かったですね。長年の努力が報われて安堵しました」と振り返る。

これだけの時間を費やしたのには、目立った実績がなかったがゆえに、有力校と対等に戦える部員数が集まらなかったこと、進学校である佼成学園では、部活動だけにすべてのエネルギーを注げないといった事情もあった。それとは別に、一朝一夕にはつくり上げることができない“強いチームに求められる良い文化”を根付かせるのに時間がかかったともいえる。

生まれた文化には、本稿の第2回で紹介したように、「部員がアメリカンフットボールを好きになること」「先輩が後輩にポジションの役割やスキルを教えること」がある。これだけではない。「頼れるリーダーが育つこと」と「部員が自律すること」も次第にロータスに根付く文化となっていた。

強いチーム、まとまりのあるチームに不可欠な存在が“良いキャプテン(主将)”である。キャプテンはリーダーシップがあることはもちろん、練習に対する姿勢も真面目で、他の部員の模範になることが望まれる。部内の出来事には細かな目配りができ、部員が問題を抱えていれば相談に乗って解決する方法を考えるし、緩みを感じれば叱咤もする。そして試合で重大な局面を迎えた時も動じることなく、プレーする部員たちの気持ちの支えになる。その存在がチームの勝敗を左右するといってもいいほど、重要な役目を果たすのがキャプテンだ。

だから、チームにとって新キャプテンを誰にするかは重大な決断となる。一般的な部活では、決めるのは大抵、3年生が引退して新チームがスタートする時だ。指導者が練習態度や人間性を見て指名することもあれば、引退する3年生が監督に推薦するケースや新チームを担う2年や1年の部員が相談して決めるケースもある。

だが、小林監督は「それでは遅い」という。

「一部員として自分のことだけ考えていればよかった者が、新チームになった途端、キャプテンとしてチーム全体を見なければならなくなるわけです。この役目をまっとうするのは相当大変なこと。キャプテンに選ばれる部員は実力的に秀でていたり、性格が真面目な者で他の部員からはそれなりにリスペクトされていたりするはずですが、だからといってチームをまとめる能力があるとは限りません。信頼できる人間性や度胸、コミュニケーション力、人の気持ちを理解しようとする気配りなど、リーダーとしての総合力を備えていなければなりませんから」

これらの能力はすぐに身に付くものではなく、任されたからできるようになるものでもない。1年時からリーダーの経験を積ませて育成していかなければならないと小林監督はいうのだ。

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