男たちの介護――(16) 遠距離の老老介護 母と穏やかな時間を過ごすために

連れ合いを亡くした母親を案じ

携帯電話の着信音が鳴った。「お父さんが入院した」。平成23年春、仲田惠三さん(71)は、母親のきよさん(92)からの知らせに「すぐに行く」と返答ができなかった。父親の政夫さんは、インフルエンザの予防接種後、風邪をこじらせ、肺炎を患ったという。気がかりでないといえば嘘(うそ)になる。だが、地元の地区役員の仕事で毎日、予定が詰まっていて、駆け付けることはできなかった。

しかも、生家までの距離は、約500キロ。急いでも車で8時間、電車を乗り継げば10時間を優に超える。仲田さんは、それでも何とか地区の用件を済ませ、連絡があってから一週間後、父の入院先を訪れた。

大病を患ったことのない政夫さんは入院生活を嫌がり、「早く家に帰りたい」と何度も訴えたが、それがかえって〈この様子ならすぐに元気になる〉と思わせ、仲田さんは安堵(あんど)の気持ちで帰路に就くことができた。

その後、入退院を繰り返した政夫さんだが、平成23年6月からは自宅での本格的な療養生活が始まった。要介護度は「2」と認定されたが、政夫さんは食事や着替え、トイレまでの歩行も一人でこなした。ホームヘルパーの支援と母の介助もある中、3人兄弟の長男である仲田さんは月に一度、妻のともよさん(68)と共に一週間の滞在予定で父のもとに通うことを決めた。父をそばで見守り、母の助けになればと考えたのだ。