それでいいんだよ わたしも、あなたも(3) 文・小倉広(経営コンサルタント)
人に優しく。自分に優しく
「人に優しく。自分に厳しく」
この言葉を聞いたことがある人は多いと思います。そんなあなたは、表題を見て少し奇妙に感じたかもしれません。
「人に優しく。自分に優しく」
あれ、誤字かな? と。安心して下さい。間違いではありません。その言葉の通りをお伝えしたいのです。
「人に優しく。自分に優しく」
心理学の世界では、対人関係の基本は「自分との対人関係」である、と考えます。つまり、自分との対人関係が悪い人は他者との対人関係も悪くなる、ということです。
例えば、いつも自分にダメ出しばかりしている人は、それを「良かれ」と思ってやっているわけです。ですから、当然、他者に対しても「良かれ」と思って、ダメ出しをします。一貫しているのです。
逆も真なり。自分を許し、自分に“良い出し”をしている人は、他者を許し、他者に“良い出し”をできるようになる。一貫しているのです。
私は、管理職向けの講演や研修で年間に100回くらい登壇しています。そこで話す内容は、主に部下育成。「部下の良いところに注目し、声を掛けましょう」。つまり「人に優しく」をお伝えするのです。
すると、毎回のように同じ質問が寄せられます。それは次のようなものです。
「部下を褒める必要があることは、よくわかりました。では、私のことは誰が褒めてくれるのでしょうか?」
「部下を褒めるべきなのはわかりました。しかし、私自身が、一度も褒められたことがないのです。ですから、どうやっていいのか、イメージがわかないのです」
なるほど。確かに人は、自分が誰かにしてもらったことを、相手にするものです。私たちは、自分が母や父にされた体験をそのままコピーして、自分の子どもの子育てに使おうとします。同様に、上司からされたことをそのままコピーして、部下の育成に使うことが多いようです。人は、自分がしてもらったことを相手にするものなのです。
では、上司から褒められたことのない人は部下を褒めることができないのでしょうか。確かに、そうした人にとって、それは簡単なことではありません。しかし、誰も自分を褒めてくれなかったとしても、自分で自分を褒めることならばできるはずです。
「人に優しく」を実践する前に「自分に優しく」を実践するのです。
対人関係の基本は、自分との対人関係。まずは「自分に優しく」。すると「人に優しく」できるようになります。
だからこそ「人に優しく。自分に厳しく」ではなく「人に優しく。自分に優しく」を私はお勧めするのです。
プロフィル
おぐら・ひろし 小倉広事務所代表取締役。経営コンサルタント、アドラー派の心理カウンセラーであり、現在、一般社団法人「人間塾」塾長も務める。青山学院大学卒業後、リクルートに入社し、その後、ソースネクスト常務などを経て現職。コンサルタントとしての長年の経験を基に、「コンセンサスビルディング」の技術を確立した。また、悩み深きビジネスパーソンを支えるメッセージをさまざまなメディアを通じて発信し続けている。『33歳からのルール』(明日香出版社)、『比べない生き方』(KKベストセラーズ)など多くの著書があり、近著に『アルフレッド・アドラー 一瞬で自分が変わる 100の言葉』(ダイヤモンド社)。