「発達障害啓発週間」特集 誤解や偏見をなくし、共に生きる社会へ(2)上

すると、授業中に嫌なことがあると教室を出て行く態度が、周囲に危害を加えないよう、気持ちを落ち着かせるための行動だったと受けとめることができた。今まで問題を起こした際に理由を答えなかったのも、自分の気持ちを表現できず、悩んだ末、何も答えられなかったのだと知った。「一つ一つの行動には、勇也なりの理由があったのです」。

一番苦しんでいたのは本人だった

親や周囲の人以上に、本人が周りの人と同じようにできないつらさや、行動を理解してもらえない苦しさを抱えていたと感じられた。もがきながら必死に努力し、日々、成長しているわが子が、これまで以上にいとおしく思えた。

一方、周囲の協力が得られるように、永山さんは意を決して勇也さんの障害を打ち明けることにした。発達障害について理解を深めてほしいとの思いからだ。仲の良い知人に伝えると、「そうだったんだ」「障害って病名がついちゃうけど、それって個性だよね」といった声が返ってきた。ありのままを認め、受けとめてくれる姿に接し、心の重荷を下ろすことができた。

中学校に進学する際には、入学前に学校を訪ね、勇也さんの状況を説明した。学校側の理解を得られたことで、中学時代に問題は起きなかった。

「障害により感情をコントロールできませんでしたが、勇也を温かく見守る雰囲気をみんなでつくってくださり、本人も安心できたようです。勇也は心身ともに安定しました。周囲の理解を得ることが、こんなにも大事だとは思いませんでした。障害にとらわれずに毎日を過ごせたのも、先生や保護者の協力のおかげです」

成人した勇也さんは現在、物事を最後までやり通す責任感の強さが買われ、スーパーに就職。鮮魚スタッフとして日々、魚のさばき方の習得に励む。本人の特徴が認められ、自信を持てたことで社会に貢献したいとの心が強くなった。

永山さんは、わが子の姿を見るたびにこう思う。「周囲と比較し、自分の価値観で接するのではなく、相手の話にしっかり耳を傾ける、一つ一つの成長を喜ぶなど、本来あるべき子供との接し方を学ばせて頂けたと感じています。発達障害への理解が進み、偏見がなくなって、一人ひとりを尊重し合える社会になることを願っています」。

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