バチカンから見た世界
バチカンから見た世界(14) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
礼拝中の宗教者を攻撃する者は、宗教者にあらず
イタリア北部トリノにある「新宗教研究所(CESNUR)」の統計によると、昨年、自身の信仰を守ったために殺害された世界のキリスト教徒の総数は9万人に上った。また、5~6億人のキリスト教徒が、信教の自由が十分に保障されない状況下で生活しているとのことだ。特に、中東やアフリカで「イスラーム」を名乗る過激派組織が台頭し、キリスト教徒を迫害するようになってから、世界のキリスト教界では「殉教のキリスト教一致」といった表現が聞かれるようになった。キリスト教の諸教会が、「殉教者」によって一致しているというのだ。
バチカンから見た世界(13) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
「魂と民を失った」と懸念される欧州連合は、どこに向かうのか(下)
欧州連合(EU)の礎石となった「ローマ条約」調印(1957年)の60周年を祝う式典を翌日に控えた3月24日、ローマ教皇フランシスコは、EUに加盟する27カ国とEUの首脳をバチカンに迎えて演説した。英国が離脱するなど、EUの崩壊が懸念される中、結束を呼び掛ける内容だった。
バチカンから見た世界(11) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
「魂と民を失った」と懸念される欧州連合は、どこに向かうのか(上)
欧州連合(EU)の礎石となる「ローマ条約」の調印(1957年3月25日)から60年が経過した。当時のベルギー、フランス、イタリア、ルクセンブルク、オランダ、西ドイツの6カ国の代表が調印したローマ市庁舎に、3月25日、英国を除くEU加盟の27カ国の首脳が集い、条約調印60周年を祝うとともに、統合の将来像を描く「ローマ宣言」に署名した。英国の離脱を前に、結束を強める狙いがあるとみられている。
バチカンから見た世界(10) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
「諸宗教間に平和なくして世界平和はあり得ない」 イスラームの指導者が主導
エジプト・カイロにあるイスラーム・スンニ派最高権威機関「アズハル」のアハメド・タイエブ総長はこのほど、宗教における暴力との関わりは、イスラームだけではなく、同じアブラハム信仰であるユダヤ教、キリスト教にもあるとし、「平和を説く者(諸宗教者)の間で平和が実現されないなら、他の個人に平和を伝えることはできない」と訴えた。宗教の名を使った暴力の問題を解決するためには、宗教の違いを超えた対話・協力の重要性を主張したのだ。
バチカンから見た世界(9) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
イスラームの社会に大きな変革をもたらすか――アズハルでの国際会議
ローマ教皇フランシスコはこのほど、ドイツの週刊誌「ディー・ザイト」のインタビューに応じ、その中で「エジプトへの“研修旅行”を検討している」との意向を明かした。エジプト訪問を「研修旅行」と呼ぶ教皇の念頭には、カイロにあるイスラーム・スンニ派最高権威機関「アズハル」への訪問があることは確かだ。アズハルのアハメド・タイエブ総長も昨年10月、世界教会協議会(WCC、本部・ジュネーブ)で行ったスピーチの中で、「来年、エジプトでローマ教皇フランシスコの臨席を得、平和会議を開催したい」との意向を表明していた。
バチカンから見た世界(8) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
「難民の受け入れは、正義と文明と連帯に基づく義務」
政情不安が続くリビアから、密航業者の用意した老朽船やゴムボートに乗り、地中海を渡ってイタリア南部の海岸を目指す人々がいる。しかし、リビアを離れて間もなく超満員の船は航行不能に陥り、イタリア沿岸警備隊や地中海航行中の各国籍の船舶に救助され、近くの港湾に搬送されるケースが多い。
バチカンから見た世界(7) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
狂信主義、過激派、暴力に共闘するアズハルとバチカン
「アラブの春」と呼ばれる民衆運動のさなか、2011年10月9日にエジプト・カイロで、ムスリム(イスラーム教徒)と同じ権利を訴えデモを行っていたキリスト教コプト正教会の信徒と治安部隊が衝突し、26人の信徒が死亡し、300人が負傷した。当時のローマ教皇ベネディクト十六世は、信徒殺害を非難し、信徒への連帯を表明。一方、カイロにあるイスラーム・スンニ派最高権威機関「アズハル」は、教皇の発言を「内政干渉」として批判し、バチカン諸宗教対話評議会との対話を「凍結する」と発表した。しかし、この5年間、バチカン諸宗教対話評議会は、イスラーム内部での改革に関して主導的な役割を果たしているアズハルとの対話再開の道を模索してきた。その努力が功を奏したのは昨年5月23日。アズハルのアハメド・タイエブ総長がバチカンを訪れて教皇フランシスコと懇談し、対話が再開された。
バチカンから見た世界(6) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
欧州に広がるポピュリズムに、歴史からの警鐘
欧州各国の社会で、「ポピュリズム」という言葉が語られるようになってから久しい。政治家が、人々の感情や情緒に訴えて、時には不安をあおって人気を得ようとする手法のため、「大衆扇動主義」とも呼ばれる。この政治手法は、グローバル化によって国や個人のアイデンティティーが喪失されていくことに恐怖感を持つ人々の心を捉えた。「自国第一主義」を主張する極右政党の勢力が拡大しつつある。一方、自国の優越性を強調する「国粋主義」が広がり、社会から寛容性が失われることに懸念も広がる。
バチカンから見た世界(5) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
大統領令に対するキリスト教諸教会の姿勢
トランプ米大統領は1月27日、国家の安全保障とテロ対策を理由に、中東とアフリカのイスラームを主流とする7カ国の国民の入国を一時禁止する大統領令に署名した。シリアからの難民の受け入れを停止し、他の難民の受け入れを一時禁止する内容も含まれている。