バチカンから見た世界(20) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

米大統領のバチカン訪問

トランプ米大統領は、就任後に初となる外遊先としてサウジアラビア、イスラエルとパレスチナ、そして、バチカンを選んだ。日程は5月20日から24日まで。ティラーソン米国務長官は、この大統領の訪問先の選択を次のように説明した。「大統領は、イスラーム国(IS)のテロによって代表される悪の勢力に対して、3宗教の信仰が結束するならば、われわれはISに勝てると確信しているからだ」と。

5月23日付のイタリア紙「ラ・スタンパ」は、「この確信は、イスラエル・パレスチナの和平交渉にも適応される。トランプ大統領は、イスラーム、ユダヤ教、キリスト教の3宗教を分裂ではなく、対話、理解、分別の道具として引き込むことによって、和平交渉を再開させたいと望んでいる」と分析した。

イスラームの聖地2都市を有するサウジアラビアで、トランプ大統領は、サウジアラビアをはじめとした湾岸諸国に向け、イスラーム・スンニ派の諸国に対して起きているテロへの結束を訴え、サウジアラビアに約1100億ドル(約12兆円)に及ぶ武器を売却する契約に署名した。この巨額の武器売却の理由を、トランプ大統領は、ISに加え、「(シーア派の)イランの脅威に直面するサウジアラビアと湾岸地域の安全保障のため」と説明した。しかし、これにより、イラクやシリア、イエメンで続く紛争で、スンニ派とシーア派との対立はより一層悪化するとみられている。

トランプ大統領は、イランと敵対関係にあるイスラエル訪問でも、イランへの対決姿勢を鮮明にした。こうした一連のイラン非難やサウジアラビアへの巨額の武器売却の見返りとして、湾岸諸国とイスラエルとの関係の改善を図り、中東和平交渉への支援を期待していると、「ラ・スタンパ」は伝えた。