バチカンから見た世界(21) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

火星人がいたら、彼らに福音を説く――バチカン天文台

ガリレオ・ガリレイがコペルニクスの地動説を支持し、バチカンの宗教裁判所から「異端」の判決を受けたのは1633年のことだった。だが、彼に対する裁判の見直しを試みる動きは、1823年にローマ教皇ピオ七世によって開始され、1962年から65年まで開かれた第二バチカン公会議の最後の年に、教皇パウロ六世も裁判の見直しを要請する発言を行った。

そして、コペルニクスと同じポーランド人の教皇ヨハネ・パウロ二世は1979年、バチカンの使徒宮殿でアルバート・アインシュタイン生誕100周年記念祝典の席上、世界各国から参集した枢機卿、大使、科学者、文化人に対して、ガリレオ問題を再審する調査委員会の創設を明らかにした。調査委員会からの報告に基づきヨハネ・パウロ二世が、バチカン科学アカデミーのメンバーを前にバチカン宗教裁判所の誤りを認め、ガリレオに謝罪したのは1992年のことだ。ローマ郊外に位置するカステルガンドルフォの教皇避暑宮殿内と、米国アリゾナ州グレアム山の標高3200メートル地点にそれぞれ天文台を有し、世界の宇宙観測の最先端を走るバチカンにとっては、当然の帰結だった。

特に、グレアム山の天文台には、宇宙の起源を解明するために欠かせない長期間の観測に適する、口径1.83メートルの高精度の大反射鏡を備えたバチカン先端技術望遠鏡(VATT)が設置されている。世界でも最高水準の技術を駆使して「神の創造の神秘」を探究するバチカン天文台は、哲学や神学を修めると同時に、天文学や宇宙物理学の分野でも国際的に知られたイエズス会の神父たちによって運営されている。

ただし、彼らは、ガリレオ裁判を教訓とし、宗教と科学を混同することはない。聖書(信仰)と実証科学、哲学(理性)とが、同じ現実の違う側面を究明しているがゆえに、この二つの側面を統合できるビジョン(像)を追求する神父たちでもある。従って、神の創造の美を観想しながら、科学によって創造の神秘を解明することは成り立つのだ。

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