中央学研の西主幹が「RIRCチャンネル」と日本印度学仏教学会で発表

学術大会では、研究の進ちょくと成果が発表された(写真提供・中央学術研究所)

また、これに先立ち、西氏は9月8日、駒澤大学(東京・世田谷区)で開かれた「日本印度学仏教学会第75回学術大会」で発表を行った。学術大会は、日本におけるインド学と仏教学の研究発展を目指すとともに、世界各国の関連分野の学者と連携し、世界文化の進運を図るもの。西氏は同学会理事を務め、発表は9回目になる。

本会の研究者として出席した西氏は第3部会で、「『ケルン・南條本』に用いられた梵文法華経写本の類似性――レーベンシュタイン距離を応用したネパール写本の系統分類の試み」について発表した。

『ケルン・南條本』は、ケルン(Johan Hendrik Caspar Kern, 1833-1917年)と南條文雄(1849-1927年)の両⽒による梵文法華経写本を⽤いた初の校訂本として刊⾏された。複数の梵文法華経写本を用いて編纂(へんさん)された初の校訂本だが、発刊当初から脚注の不備や、異なる書写年代・出土地域を区別しない写本の校合(きょうごう)など、約一世紀にわたって編纂上の問題が指摘されていた。西氏は長年この問題を解決する研究に従事。2021年からは、文部科学省の外郭団体「日本学術振興会」による助成を受けた研究課題「梵文法華経諸問題解明のための基盤テキスト構築『ケルン南條本』校訂へ向けて」に取り組んでいる。今回の発表は、この研究に関連した成果発表の一つとなった。

当日の発表では、西氏が共同研究者と開発したPC言語解析プログラムの活用によって、梵文法華経写本の系統分類が可能になったことを紹介。『ケルン・南條本』で使用されている各写本をローマ字化・テキストデータ化し、独自開発したプログラムにかけることで、効率的に類似した偈文句や異読を発見することができるようになった点を強調した。それを発展させ、レーベンシュタイン距離(二つの文字列間の類似度を示す距離)を応用したプログラムで算出した写本間の類似率をもとに、写本の系統分類を行える可能性について論じた。

今後の課題として、比較文献(梵文法華経写本)の範囲拡大、書写年代を考慮した分類手法の確立などを挙げ、「梵文法華経写本の伝承過程の解明につながる新しい知見が得られるよう研究を続けたい」と語った。

なお、研究成果は中央学術研究所が発⾏する『Philosophica Mahāyāna Buddhica Monograph Series(大乗仏典思想叢書=そうしょ=)』(第6・8・9号)に公表している。PDF版は以下のURLからダウンロードできる。

https://www.cari-saddharmapundarika.com/philosophica