大人が学ぶ 子どもが自分も相手も大切にできる性教育(9) 文・一般社団法人ソウレッジ代表 鶴田七瀬

画・ありお

『「嫌」と言えるようになる教育』

令和5年2月に発表された警察庁の犯罪統計資料では、強制わいせつ(※)に遭った被害者で10代以下の割合は4割を超えています。全年齢の男性の被害者の中では、約半数が13歳未満の子どもです。

こうした統計から見ても、子ども自身が性犯罪から身を守る手段を持つのは不可欠です。

加害者は子どもに付け入る隙を探しています。加害者が何日もかけてターゲットとする子どもを見定めていたという例もありました。性器や胸を触っても遊びだと思ってくれそうな子、おとなしそうな子やよく一人でいるような子は特に狙われやすいです。そうして、ターゲットの子どもに近づき、膝の上に乗せたり、「二人だけの秘密だよ」などと言って子どもに親しげに接したりしながら、徐々に行為をエスカレートさせていきます。

最終的に性行為に及ぶことを目的として子どもに近づき、関係を築いていくことを「チャイルドグルーミング」といいます。残念なことに、性加害を行う大人は一目では分かりにくいどころか、子どもと親密であったり、周りから信用・尊敬されていた人だったりすることがあるのです。

性被害の予防策として、「嫌」と言えるようになる教育はとても大切です。本人の気持ちは本人にしか分からないというのは、自分の子どもであっても例外ではありません。子どもが「○○されて嫌だった」と言ってきた時に、「そんなの大したことないよ」と、本人ではない人が勝手に傷の深さを判断していないでしょうか。その反応で子どもがさらに傷つき、「どうせ言っても無駄」と無力感を覚え、嫌と思っても素直に言えなくなってしまいます。

子どもが嫌と言えるようになるには、その「嫌」という気持ちを尊重された経験を小さい頃からどれだけ積み重ねてきたかがカギになります。幼い子をくすぐって、嫌がっているのを見て、その姿がかわいくてくすぐり続けたという経験を持つ人はいませんか? 照れ隠しや、もっと構ってほしいと思っているような場合もありますが、言葉で「嫌」と言っていたら止めてあげましょう。子どもが「嫌」と伝えることに効力感を持てるように、そして自分の言動に対して「嫌」と言われた時に取るべき行動を理解できることが大切です。また、シンプルですが、「嫌」の言葉の意味はその言葉通り大半が「嫌」と思っている、という認識も不可欠です。意思と言葉の一致は、犯罪の予防のみならず、成長する中で家族や友人など周りの人と良い関係を築いていくための大事な要素になるからです。

嫌と言えるようになる教育は、下記を参考にしてみてください。

・日常的に「嫌」を伝える練習をする
・まずは「そうだったんだね」と受け止める
・何がどう嫌だったかを整理するのを手伝う
・相手に「何が嫌だったのか」を伝える練習をする

「嫌」という思いを、相手を傷つける言い方で伝える子もいます。「やめろ! 死ね!」。こんなふうに言った時、「やめろ」という意思表示は否定せず、相手を意図的に傷つける悪口「死ね」はいけない言葉だと教えてあげてください。

子どもの「嫌」を受け入れるのは難しい場面が多々あると思いますし、いちいち説明することも大変ですよね。できる範囲で、トライしてみてください。

最近は、「ジャニーズ性加害問題」に注目が集まっていますね。被害者が未成年だと、より「こういうものだから」と丸め込まれやすかったり、性被害に遭っている自覚が本人になかったりします。また、男の子だと被害に遭っていても女の子よりも軽く捉えられてしまい、何かあった時に相談をするハードルを上げてしまいます。さらに、夢を実現させたいという願いと被害がてんびんにかけられることや、自分より力を持つ人(身分が上の人、女性より力が強く体が大きい男性、子どもから見ると大人など)からの行為となると、告発などの抵抗も難しいことが多分にあります。

このことから、子どもたちが自衛する力を上げるだけでは不十分であることが分かります。

被害が起きにくい、また、万が一起きてしまった時に声を上げることができるような社会や構造を、私たち大人が考え、つくっていかなくてはいけないのです。

できる限りの犯罪を未然に防ぎ、少しでも「嫌」と声を上げられて、大人が手を差し伸べ、傷つかない子どもが増えたらと願っています。

※統計発表当時のデータを基に名称を記載しております

プロフィル

つるた・ななせ 1995年生まれ、静岡県出身。兵庫県尼崎市在住。日本で性教育を行うNPO法人でインターンをしたのち、文部科学省主催による留学促進キャンペーン「トビタテ留学ジャパン」の支援を受け、性教育を積極的に行う国の教育・医療・福祉などの施設を30カ所以上訪問。帰国後に「性教育の最初の1歩を届ける」ことを目指し、2019年に一般社団法人ソウレッジを設立した。「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN 2021 日本発『世界を変える30歳未満』30人」受賞。