大人が学ぶ 子どもが自分も相手も大切にできる性教育(12) 文・一般社団法人ソウレッジ代表 鶴田七瀬

画・ありお

『性教育を日常に 私たちの取り組み』

性教育が子どもたちにとってもっと身近になるように、そして、子どもたちと触れ合う周囲の大人のサポーターになれるように、私たちはこれまでいろいろな取り組みを行ってきました。今回は、その一部を紹介します。

これまでの連載で、日常の中で性教育を学ぶ大切さを話してきました。通常、学習は繰り返すことで理解が深まります。英語や数学の問題集を何度も解いた経験が皆さんにもありますよね。にもかかわらず、性教育は年に1回、わずかな時間。それでは覚えられないだけでなく、漫画や動画など、目にする回数が多い情報を信じてしまうのは当然だと思います。

正しい情報を繰り返し目にすることや、何度も練習する大切さを実感し、私たちがまず初めに取り組んだのが、「性教育トイレットペーパー」の製作です。普段使われるトイレットペーパーに、体の仕組みやセクシュアリティなどについての知識が、文字やイラストで描かれているものです。「性教育を学ぼう」「恥ずかしいことじゃないよ」と言われても、人目のあるところで学びたくない子もいます。プライベート空間であるトイレで、情報が自然と目に入るようにすれば学びやすくなるのではと考えました。

現在は販売終了していますが、トイレットペーパーにかかれたイラストなどのデータは私どものウェブサイト(https://sowledge.stores.jp/)で見ることができます。

私たちの取り組みだけでなく、子どもが学べるツールとして、書籍やYouTube、インスタグラムなどがあります。たとえば、TikTokの「SQQUラボ【地球外生命体と学ぶ性教育】」というアカウントでは、映像と字幕を使って、分かりやすく性にまつわる情報を解説しています。

大学生向けに行われた講演会

そのほか、ゲーム感覚で学べる性教育のツールも開発しました。未就学児・小学校低学年の子がプライベートゾーンを動物の体から学ぶ「プラベ」と、大人向けの性教育を学ぶ「ブレイクすごろく」です。プラベは現在も販売しています(https://sowledge.stores.jp/items/6005037c72eb464d1de85fd6)。すごろくは現在、研修や講演の際に使っています。ゲーム形式にしたのは、多くの人を巻き込みながら楽しんで学べると思ったからです。

ブレイクすごろくは、グループ内で対話しながら行う人生ゲームのような形式で、子どもが生まれてから成人するまでに直面する性の悩みや、今の子どもたちが置かれている環境について、コマを進めながら成長を追うように考えることができます。

「先生の胸を触ったら怒られちゃった。お母さんには怒られたことないのに ➡ この子が誤ちを繰り返さないためには、どんな声がけが必要だと思いますか?」

「友達のいってた『セックス』って言葉が気になってネットで検索したら変な動画が出てきた ➡ 子どもと一緒に使っているパソコンに『セックス』の履歴が! あなたならどうする?」

というように、子どもが置かれた状況を、大人が自分事として捉えてどう行動するかを問われるマスもあります。

講演で使われたすごろく

実際にすごろくに取り組んだ95%以上の人から、「すごくよかった」と好評を頂いております。すごろくは産婦人科医の監修を基に作られているので、学べることがいろいろあると思います。また、すごろくはグループワーク形式でもあるため、性教育に関する共通意識が大人同士で持てるようになり、相談や意見を発しやすくなったり、子どもへの接し方が変わったりしたという感想も頂いています。普段は教員の方を相手にして研修を行うことが多いですが、18歳以上の方を対象にどんな立場の人でも随時、研修依頼を受け付けています。興味のある方はこちらのURL(https://breaksugoroku.studio.site/)からお問い合わせください。

私たちは他にも、産婦人科医と連携し、若者に緊急避妊薬を無償で届ける取り組みも行ってきました。緊急避妊薬を渡すだけでなく、同じことを繰り返さないように、LINEで定期的に性知識や福祉の情報を届けるようにしています。私たちは、知識や薬を渡してそれで終わりではなく、本人がこの先の人生を自分の力で歩んでいくつながりを持ち続けて、正しい選択ができるようサポートするのも大事だと思い、活動を行っています。

プロフィル

つるた・ななせ 1995年生まれ、静岡県出身。兵庫県尼崎市在住。日本で性教育を行うNPO法人でインターンをしたのち、文部科学省主催による留学促進キャンペーン「トビタテ留学ジャパン」の支援を受け、性教育を積極的に行う国の教育・医療・福祉などの施設を30カ所以上訪問。帰国後に「性教育の最初の1歩を届ける」ことを目指し、2019年に一般社団法人ソウレッジを設立した。「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN 2021 日本発『世界を変える30歳未満』30人」受賞。